IAEA:ジカ熱対策で放射線を利用した不妊虫放飼法技術の研究開発拡大へ

2016年2月4日

不妊虫放飼法について説明するマラバシ事務次長©Calma/IAEA

不妊虫放飼法について説明するマラバシ事務次長©Calma/IAEA

 妊婦が感染すると胎児への影響が疑われる「ジカ熱」が中南米で広がり、世界保健機関(WHO)が2月1日に緊急事態宣言したのを受け、国際原子力機関(IAEA)は3日、放射線を利用した不妊虫放飼法(SIT)がウィルスを媒介する蚊の個体数削減に有効との見解を表明した。IAEAのA.マラバシ原子力科学・応用担当事務次長(=写真)が報道陣に対し、「(この夏にオリンピックを開催する)ブラジルがSITをほかの方法と組み合わせて実施すれば、2~3か月で蚊の数を削減できる」と述べたとの報道もあり、今月16日にもIAEAの専門家がブラジル当局とSITの導入方法について協議を行うと伝えられている。

 この発表の直前、IAEAの天野之弥事務局長は中米の3か国を訪問した。その際、これらの諸国からも同分野におけるIAEAの技術支援について関心表明があったとし、事務局長はSITの研究開発規模を拡大するなど、蚊の個体数制御でIAEAが協力可能な方策を協議した。南米やカリブ海諸国の専門家はすでに、SITを使ったミバエやラセンウジバエ対策でかなりの経験を積んでいるが、今や世界中からSITを有害な蚊の削減に利用することへの関心が高まっているとIAEAは指摘。同技術が加盟各国で蚊を制御する総合プログラムの一部になり得ると強調している。

 SITは1950年代に米農務省のE.ニプリング博士が中心となって開発。人工飼育した虫の雄を放射線照射で不妊化し大量に野に放つというもので、野生の雌と交尾しても卵が孵化しないため個体数は徐々に減少していく。従来の殺虫剤散布法のように虫に耐性ができたり、環境が汚染されることもなく、過去50年の間にミバエやツェツェバエ、ラセンウジバエ、蛾といった様々な害虫対策においては世界中で効果を上げてきた。日本でも沖縄で1978年の久米島を皮切りに1993年までに全島でウリミバエの根絶に成功した。

 IAEAは食糧農業機関(FAO)との連携により、SITの適用拡大研究を世界中で促進しており、ジカ熱やチクングンヤ熱、デング熱といった病原ウィルスを媒介する蚊に対しても、SITを適用する試験プログラムがイタリアやインドネシア、モーリシャス、中国で進行中だとした。すでに完了したものもあり、非常に有望との結果が出つつあるが、照射前に大量飼育した蚊で雌雄を分別するのが難しく、SITを産業規模で蚊の削減に利用するのは未だ初期段階にあるという。IAEAによると、過去10年間にIAEAの様々なプロジェクトを通じて、いくつかの国が蚊にSITを適用する訓練を受けたり関連機器や技術を入手。2015年秋にメキシコとグアテマラで行われた1か月間の研修コースも、中南米の専門家の技術・管理スキルを向上させたとしており、これらの国で十分な数の不妊虫が準備でき次第、試験的なリリースが開始できるとの見通しを示した。