フランス会計院:既存炉58基の改修計画には1,000億ユーロが必要と発表
フランスで最も権威ある国家機関の1つである会計院は2月10日に年次報告書を公表し、フランス電力(EDF)が国内の原子炉58基の運転期間を延長するために計画している改修には、EDFによる見積り投資額の約2倍に相当する約1,000億ユーロ(約12兆8,000億円)が必要との見解を明らかにした。また、2015年夏に成立したエネルギー移行法を実行に移した場合、経年化が進んだフェッセンハイム原子力発電所の2基のみならず、3基目の閉鎖も余儀なくされる可能性にも言及。エネルギー移行法が要求している複数年のエネルギー・プログラムの準備期間に、改修計画が及ぼす経済的な影響について評価を行うべきだと勧告している。
フランスでは原子炉の運転期間に決まった有効期限がなく、10年毎に実施する大規模な安全審査の結果により、原子力安全規制当局(ASN)が運転の継続を承認している。EDFは福島第一原子力発電所事故による教訓の反映も含め、既存炉58基の安全性を改善するとともに、一時期停滞していた運転実績を回復させ、運転期間も40年以上に延長することを目指した大規模な改修計画「グラン・カレナージュ」を2011年に発表。2014年から2025年までの11年間に550億ユーロ(2011年価格)(約7兆円)を投入するとしていた。会計院によると、同計画でEDFは2030年まで5年間の追加期間もカバーしているが、投資見積り額の中に運転コストを盛り込んでいない。この期間中の改修に必要な投資額747億3,000万ユーロ(約9兆5,600億円)に運転コストの251億6,000万ユーロ(約3兆2,000億円)を加えれば、全体として約1,000億ユーロが必要になる計算。EDFとは評価範囲が異なるため、両者の見積り額は一貫しているとした。また、対象期間中に不確定要素があるとしても、発電コストについて見積もった同計画の効果は133億ユーロ(約1兆7,000億円)に留まるとの認識を示した。
一方で会計院は、2015年8月に成立した「グリーン成長のためのエネルギー移行法」により、国のエネルギー・ミックスにおける原子力の役割が見直された点に言及。目標として2025年までに原子力の発電シェアを50%に削減するほか、再生可能エネルギーの利用拡大のため原子力発電設備は現状レベルの6,320万kWに制限されることから、全原子炉を対象としたEDFの改修計画にも広範な見直しが必要だと指摘した。会計院の見方によると、同法の実施により投資計画が脅かされ、EDFは3基目の原子炉閉鎖を強いられるかもしれないし、これは雇用などの重要問題につながるため、国が補償を支援する可能性も否定できない。EDFと政府にとってこれほど大きな問題であるにも拘わらず、エネルギー移行法を公表する前に、こうした可能性に関する経済的評価が行われなかったと強調。同法に基づいて複数年のエネルギー・プログラムの準備を行っている間に、これらの評価を行わねばならないとしており、具体的には、改修計画への産業的および経済的影響のほかに、主な不確定要素であるエネルギー移行法や付随リスクを考慮に入れた同計画の評価見直し--などを挙げている。