OECD/NEA:福島第一発電所事故後の5年間に加盟国が実施した安全対策で報告書
経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は2月29日、福島第一原子力発電所事故発生後の5年間に加盟国で取られた安全改善策と得られた教訓についてとりまとめた報告書を公表した。W.マグウッド事務局長は前文のなかで、原子力発電所における安全性の確保という世界共通の目的を達成するため、加盟各国がそれぞれの安全基準や要件、特有の外部災害条件の中で努力を進めてきたが、必ずしも同じ出発点から始める必要はないと指摘。進展状況は国によって様々だが、いくつかの国では政府が規制当局の独立性を強化する活動を行っている点に言及した。また、安全性の改善が大幅に進むなかで更なる改善に向けた努力も進展中だと評価する一方、安全性の確保は我々が運転経験や研究を通じて学び、進展させていく「1つのプロセス」だと肝に銘じることは非常に重要だと提言。安全文化に反映された人的側面や訓練、組織的なファクターなど、新たな教訓に取り組むための作業がまだまだ山積しており、国レベルと国際的なレベルの両方で継続的かつ一貫性のある努力が必要だと訴えている。
NEAは2013年、事故直後にNEAと加盟国が緊急に実施した対応策に関する詳細な報告書を公表したが、今回の報告書は(1)加盟国の規制当局が新たな要件を規定するために行った活動や(2)規制の枠組改善で取った活動、(3)事故そのものへの知見と理解を深めるための研究活動、(4)放射線防護と緊急時対策の改善で行われた活動、(5)原子力損害賠償分野も含めた法的枠組の改善--に関する最新情報や概要をNEAの複数の関連委員会が集約。さらなる教訓と課題と特定し、原子力発電所の現在と将来における継続的な安全確保のために考慮すべき点をまとめたもので、国際原子力機関(IAEA)や世界原子力発電事業者協会(WANO)などの国際機関が公表した関連報告書を補完する位置付けになる。同事故の後に加盟国で取られた科学技術的な対策関連では、炉心の冷却や格納容器における健全性の維持、使用済み燃料貯蔵プールの冷却について解説したほか、結論部分の概要は以下の通りとなっている。
・継続的な安全性の改善
安全性に関する一義的な責任は事業者にあり、規制当局は事業者が原子力発電所で継続的に安全性を改善していくよう保証するのが目標。発電所の運転を続ける上で、極端な状況に対する耐性を設計ベースの安全裕度で強化することが必要であり、多くの改善策が実施中あるいは実施にむけた作業が進展している。福島第一原子力発電所では地震による津波が事故発生の原因となったが、世界の原子力発電所で取られつつある安全対策は、人的要因が引き起こす事象も含め、いかなるタイプの事象にも適用可能なものとなっている。
・規制の枠組強化
国毎の安全性の枠組は、行政機関による枠組の向上や、規制当局の独立性増強などを通じた規制改定により一層強化されつつある。規制上の独立原則、特に規制当局と原子力を利用・促進する側の機能を実質的に分離することは基本的なことであり、これを維持していくには細心の注意が必要となる。加盟国では規制枠組に関する審査や、福島第一事故の教訓を反映した規制変更を実施。具体的には、事故管理や危機コミュニケーション、前例事象、多重防護、安全文化、効果的な規制、新型炉規制などについて、安全性の枠組と規制を継続的に改善するための活動が多数行われた。
・ステークホルダーの関与と広報活動の促進
地元当局や産業界、非政府組織、政府当局、一般市民などのステークホルダーを規制やサイト外緊急時管理における意思決定に関与させることは、その信憑性や正当性、持続可能性、最終的な質を高める上で適切かつ望ましい。さらに、事故時に限らない平時での定期的なコミュニケーションの場をこれらのステークホルダーに予め提供することが事故時の理解改善の面で強く求められる。福島第一事故の経験は、国内においても国際的にも、情報を共有し評価するアプローチの必要性を浮かび上がらせており、原子力施設の安全性に関するすべての側面がよく理解されるよう、各国の規制当局と政府がステークホルダーと効果的にコミュニケーションを取るべきであることが改めて確認された。
・効果的な安全性改善の実施
加盟国は福島第一事故からの同一の教訓について議論し、求める結果も非常に類似していたが、潜在的な事故の発生防止と影響緩和という目標を達成するための手段は異なっていた。極端な外部災害関連では特に、加盟各国がそれぞれ特有の自然条件下にあるほか、国毎に異なる規制要件、定期安全審査の様々な適用手法、異なる型式や世代の原子力発電所などが存在。これらは各国の運転経験や規制慣行を反映したもので、安全改善策の日程や優先順位にも加盟国毎に差異が生じることになる。
・運転経験とリスク見識の活用
運転経験に関する教訓は国際的に広く流布されており、福島第一事故で見られた主な起因事象やその後の進展、影響は未知のものではない。しかし、起因事象が組み合わさったことや、その重大性は過去に例がなく、3基の原子炉で同時に事故が進展したことも初めての経験。運転経験の既存のフィードバック・システムは教訓を得るための良い手段であり再発防止に役立つ一方、リスクに関する見識を組み合わせた運転経験は潜在的な安全対策の一層重要なソースになり得ることを福島第一事故は実証した。
・緊急時管理と長期的に対処していくための資金
福島第一事故は大規模な事故の影響管理にともなう課題を実例として示しており、決定責任が中央政府から地元自治体や影響を受けた個人にシフトしていく中で、時間の経過とともに、放射線や社会的な影響が次第に明確になっていった。このような長期間にわたる状況から発生する複雑な問題に取り組むための方策を検討し、国の計画に盛り込む必要がある。また、同規模の事故に際して緊急時管理を行うための資金が重要となることが実証された。同事故から直接影響を受けなかった国でも、日本からの移住者を守る最良の方法や日本から到着する人や貨物への対処方法、日本産の食物の管理方法など、急速に進展する状況を把握するための資金を大幅に増強。日本政府もこのような事故状況に対処する資金を増強すると同時に、諸外国や国際機関からの問題に公式・非公式にも取り組むための資金を確保する必要がある。