英国放射線科専門医会:月刊誌の福島特集で「被ばくリスクが誇張されている可能性」を指摘
英国の臨床腫瘍学と臨床放射線学の専門家を代表する王立放射線科専門医会(RCR)は3月4日、臨床腫瘍学部門の月刊専門誌「クリニカル・オンコロジー」で福島第一原子力発電所事故による放射線影響を特集し、放射線の物理的な影響そのものより、放射線の作用に対する恐怖心の方が精神的な健康や幸福に対する被害という点で重要となる可能性を指摘した。複雑かつ現在進行中の福島の現状について非物理的な側面を分析しており、福島第一事故の健康被害に関する既存の実証研究や学術研究に貢献するのみならず、同様の事故が発生した後の避難計画を見直す上で十分なデータを提供。災害救助や危機・緊急事態の管理、復興に携わる人々が学ぶべき極めて重要な教訓も明らかにしている。
同特集号ではまず、世界保健機関(WHO)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、および国際原子力機関(IAEA)が福島第一事故関連でまとめた報告書のデータを引用。WHOの報告書では、同事故後最初の1年間で避難区域におけるすべての年齢グループの特徴的な実効線量を10~50mSvと見積もったほか、浪江町の幼児の甲状腺で線量は100~200mSvの範囲内だとした。一方、UNSCEARは避難区域における最初の1年間の実効線量を1.1~13mSvと計算。甲状腺吸収線量は大人で7.2~35mGy、1歳児では15~83mGyになると推定した。また、個人の外部被ばく線量については、事故後の4か月で避難区域住民全体の93.9%が3mSv未満であり、甲状腺等価線量は避難区域の子供の98.8%が15mSv未満になるとしている。
このような数値から同特集号は、「避難民の被ばく線量はごくわずかであり、被ばくによる健康被害が確認される可能性は低い」と明言した。また、東日本大震災と津波によって15,894名が死亡したが福島第一事故の放射線による死亡例は今のところ1件も確認されていない事実に言及。推定30万人の避難者の多くが深刻な精神的トラウマのほか、アルコール摂取量の増加や糖尿病、肥満の増加といった長期にわたる身体的問題に苦しんだが、これらの原因が放射線によるものではない点に触れた。その上で、非身体的なトラウマの影響は長く続き、放射線被ばくよりも大きな影響を人間の健康や幸福に及ぼす可能性があると指摘。特集号を編集した分子病理学者のG.トーマス教授の見解として、「放射線影響に対する恐怖心から、人々は放射線の影響よりも深刻な影響を人体にもたらす行動を取る可能性がある」との認識を表明した。同教授によると、福島第一事故後の状況は、このような事故による長期の心理的影響を研究・治療する重要性を明示している。放射線リスクに対する認識は再評価する必要があると強調した。