米規制委のバーンズ委員長が「専門技能職集団」として健全な規制政策を保証
米原子力規制委員会(NRC)は3月の第2週に第28回目の年次「規制情報会議(RIC)」を米メリーランド州ベセスダで開催し、8日の冒頭演説に登壇したS.バーンズ委員長は、世界がますますリスク回避的な方向に動くなかでNRCがどのように原子力規制を行っていくかなど、自らの規制哲学を披露した。同委員長は1978年に地域運営・強化部門の新任弁護士としてNRCに加わっており、当時の状況を振り返りつつ委員長職についている現在、および2017年以降の将来を展望。NRCがその職務としてリスクを評価した上でそのバランスを取り、技術革新を犠牲にすることなく規制上の境界線も設定するなど、規制の専門職人としての能力を発揮していきたいという見解を明らかにした。
独立の立場でもオープン・マインド
委員長はまず、原子力法の下でNRCが独立性を保持している一方、隔離された存在というわけではなく、外部の人々の意見を聞くこともまた、NRCの職人技能の一部だと指摘。産業界や議会、州や地方自治体の政府、非政府組織、国際機関および一般国民との有意義な対話がNRCにとって重要であるとした。また、自らも共和、民主のどちらにも属さぬ無党派であり、一定の結論を強いるような硬直化したイデオロギーには執着しないと強調。これまでの経験から、最良の判断や合意ベースの解決策は大抵、すべての関係者を交えた意味のある対話を通じてもたらされるとの考えを述べた。その1例として、福島第一原子力発電所事故対応で設計外事象への最良の対策を評価していた際、発電所毎の状況に応じて柔軟な対策が取れるよう、産業界がバックアップ安全機器の提供が可能なFLEX戦略を作り上げた点に言及。同戦略は国内2か所の地域対応センター設置につながっており、自分にとっては最良の共同問題解決努力の1つだと指摘した。
リスクの受け止め方はNRCへの信頼で決まる
委員長は次に、NRCの職務の1つであるリスク評価に触れ、1978年以降、国民の受け止め方が大きく変化した分野の1つだと述べた。ある行動や慣行を変えることで命が救われるのは確かなことだが、ある者がリスクと捉えているものを、他の者は無意味だとして取り合わないかもしれず、地球温暖化に関する地球規模の議論がこれに当てはまるようだとした。また、リスクの受け止め方は人によって様々に異なるものであり、素人に近い2グループが原子力発電を危険と感じるリストのトップに挙げた一方、原子力の専門家グループが交通事故や銃、喫煙など30ものリスクの20番目に原子力を付けた例に言及。NRCの規制上の役割に対する人々の受け止め方とリスクをつなぐ重要な概念は「信頼」であるとの認識を明らかにした。リスクの受け止め方は少なからず、そのリスクを伝える人や組織を我々がどの程度信頼しているかにかかっており、自分は信頼を生む魔法の杖を持っていないが、NRCと産業界はどちらも、信頼がどのように醸成されるかこれまで以上に綿密に考えねばならないのは明らかだと述べた。
職人的技能で規制課題に取り組む
委員長はさらに、「どの程度安全であれば十分安全なのか」を常に再評価することによって、NRCは信頼を培っていくことになるとし、その際には「規制における職人的技能」を実践すると明言した。技術革新を犠牲にしたり不当な重荷を強いたりせずに効果的な規制を行うには、規制当局が過剰規制と規制不足の狭間で最良のポイントを絶え間なく追求する必要があり、過去に行ったことすべてが常に正しく、再評価の必要は無いなどと思い込んではならない。変化する状況に柔軟に対応するNRCの能力の例として、委員長は福島第一事故後の様々な規制上の課題に対し、関係者の意見を聴取した上で冷静かつ思慮深いシステマチックな方法で適切な行動を取ったと強調。同事故の教訓は原子力発電所における日々の運転に反映されており、同様の事故を米国で決して発生させないという深い誓いは、会場内にいるすべての観客と分かち合っていると明言した。
新たな技術開発を妨げない規制活動
このほか委員長は、「NRCの職人的技能は不完全であり、米国における新たな原子炉建設の可能性を犠牲にするような、リスク回避的で小心な機関である」との批判にも反論。ニュースケール社が2016年末に予定している小型モジュール炉(SMR)設計の認証審査(DC)申請に対して協力体制を取っていること、テネシー峡谷開発公社(TVA)が晩春にも同設計の早期立地認可(ESP)を申請する見通しであることを明らかにした。また、非軽水炉の先進的な設計についても、規制枠組の開発に関わる活動費として500万ドルを2017会計年度分予算に要求したとしている。