米ブラトル・グループ:NY州の温暖化防止戦略で原子力保持が有効とコメント
エネルギー問題の分析を専門とする米国の大手コンサルティング企業、ブラトル・グループは4月21日、ニューヨーク州公益事業部(DPS)の「クリーン・エネルギー基準に関するコスト調査白書」を審査した結果として、同州北部にある3サイトの原子力発電所の保持で得られる環境上、経済上の恩恵は必要経費をはるかに上回るとのコメントを公表した。この見解は、DPSが白書の中で提示していた同様の結論を全面的に支持する内容で、同グループはさらに、「原子力発電所の恩恵をすべて考慮すれば、一層多額のコストが相殺される」との見解を示したもの。DPSによると、2030年までに州内の再生可能エネルギーの比率を50%まで拡大するという目標を達成する上で、原子力は重要な橋渡し的手段であるほか、最もコスト効果が高いとの判断を下していた。
原子力発電で年間17億ドルの電気代節約
米国では、2030年までに発電部門のCO2排出量を2005年レベルから32%減らすことを目標としたオバマ大統領のクリーン・パワー政策に基づき、環境保護庁(EPA)が2015年8月に温室効果ガスの排出量削減を可能とするエネルギー計画の作成を各州に指示。NY州ではDPSが今年1月、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年の80%まで削減するという州の長期目標を達成するため、新たなクリーン・エネルギー基準(CES)案を対応策の1つとして提案した。これを実行する3層のプログラムとしては、「第1層:2015年1月以降に商業運転を開始した新しい再生可能エネルギー源の活用」、「第2層:既存の再生可能エネルギー源の活用」--に加えて、「第3層:ギネイ、フィッツパトリック、およびナインマイルポイントの3原子力発電所を維持する」プログラムを提示。そのコスト調査を行った結果として、2023年までのCO2排出削減量の75%以上が第3層プログラムの実施によるものとなり、これは州の長期目標の約50%に相当する一方、経費の方はプログラム全体の21%に過ぎなかったとしている。
ブラトル・グループはこのような判明事項を支持した上で、第3層プログラムによってNY州民に年間17億ドルの電気代節約がもたらされると分析した。その上、こうした節約が年間31億6,000万ドルのGDP増加につながるとしており、環境上の恩恵も含めると原子力発電所保持プログラムの恩恵は、実施コストの70倍以上。この数字は、環境上の恩恵についてのみ「コストの6倍以上」と評価したDPSの分析結果をはるかに上回ると指摘した。
州知事、公益事業委も原子力の重要性を認識
また、DPS調査が原子力を最もコスト効果が高い重要手段と評価した点に関して、ブラトル・グループは昨年12月にA.クオモ州知事がCESの策定を州の公益事業委員会に指示した際、「原子力のようにCO2を出さない電源の運転継続には特に注意を向ける必要がある」と述べていた事実に言及。同知事は、原子力を排除すれば再生可能エネルギーで達成したCO2の排出削減が台無しになるとし、原子力発電所の維持は2030年までにCO2排出量を40%削減するという中間目標の達成にとって重要との判断を示していた。同グループは、州内の原子力発電所が早期閉鎖リスクにさらされている主な理由の1つとして、CO2の排出削減に対する原子力の貢献を市場が認識していない点を指摘。CESの第3層プログラムでは、原子力に対して再生可能エネルギーと同様の「ゼロ排出クレジット(ZEC)」導入が示唆されており、ZECで一般相場より高めの電力購入価格が設定されれば、発電所の運転継続が保証されるとした。
現在、NY州の低炭素発電電力のうち35%を北部の原子力発電所3サイトが賄っているほか、同じく35%が水力、23%が南部のインディアンポイント原子力発電所からのもの。風力は7%、太陽光は1%以下に過ぎず、ブラトル・グループでは北部の原子力発電所を閉鎖すれば、州内のCO2排出量は年間1,600万トン増加すると計算した。1トンのCO2に対して43ドルの社会コストが必要だと連邦政府タスクフォースが見積もっているため、この増加分だけで約7億ドルの経費がかかる計算。こうした点からもブラトル・グループは、北部の原子力発電所維持による環境上の恩恵の大きさを指摘したDPS評価には、全く異論は無いとしている。