米NEI会長:「発電量と信頼性で原子力に匹敵する低炭素電源なし」
米国では近年、原子力発電所の運転実績や安全性が良好であるにも拘わらず、経済的な理由から早期閉鎖に追い込まれる発電所が複数浮上している。このような現状から、米原子力エネルギー協会(NEI)のD.ブランツ会長(=写真)は、原子力発電がもたらす低炭素電源としての恩恵や電源多様化における価値に人々の注意を向けるため、原子力産業界は一層の説明努力や関係者との協力を重ねていかねばならないと訴えた。5月24日にフロリダ州マイアミにおけるNEIの年次集会で述べたもので、同会長は「発電電力量と信頼性において、原子力に匹敵する低炭素電源はほかにない」という事実を強調した。年次集会の5日前には、米国で低炭素電力の6割以上を賄う既存原子力発電所の温存策検討サミットを米エネルギー省(DOE)が開催したが、このサミットでNEIは、全米の商業炉99基のうち15~20基が今後数年の間に早期閉鎖のリスクにさらされると警告していた。会長はまず、テネシー州で建設中だったワッツバー2号機がこの夏にも営業運転を開始する見通しとなり、続く4基の建設工事もジョージア州のボーグル原子力発電所とサウスカロライナ州のサマー原子力発電所で中間点を超えたことに言及。小型炉や新型炉など、革新的な設計技術の開発も進んでいると指摘した。その一方で、経済性や電力市場の課題に直面した原子力発電事業者は、価格が適正で信頼出来る低炭素電力を望む米国民の希望を満たすために、原子力発電所の早期閉鎖を食い止める努力を懸命に続けているとした。
原子炉新設の動きが一段落してしまい、電力市場も天然ガス主導型にシフトしている現状では、産業界は原子力の恩恵に対する国民の認識を高め、新たな味方を獲得し、産業界全体で運転効率を高めるための新たなイニシアチブを実施していく必要があると会長は明言。新設プロジェクトの第1陣から教訓を学べば、第2陣のプロジェクトではコストや建設スケジュール、プロジェクトの確実性を大幅に改善可能であると実証することができる。ただし、第2陣が到来するかどうかは、電力需要見通しやクリーン・エネルギー政策、既存炉が直面する課題への我々の取り組みといったファクターにかかっていると述べた。
ブランツ会長によると、産業界は原子力発電のもたらす恩恵について簡潔にデータを述べるだけなので、人々の感情や心、想像力を揺り動かすことができない。人々の関心を得られなければ、せっかくのデータも人々にとっては取るに足らないものとなる。こうした背景から、産業界は原子力が電源の多様化やクリーン電力の供給で果たす重要な役割など、低炭素なベースロード電源としての恩恵をもっとプロモートしていかねばならないと勧告した。
同会長はまた、原子力産業界では昨年12月から、発電所の効率を高めるとともにその価値に見合った代償を得るための戦略計画として、新しいイニシアチブ「原子力による約束の履行:安全性と信頼性と経済性の向上」が始まったことを紹介。同イニシアチブではNEIや原子力発電運転協会(INPO)、電力研究所(EPRI)の上級幹部が全体的な運営を管理しており、安全性と信頼性を改善しつつ産業界全体で運転コストの大幅削減が可能な革新的ソリューションを2018年までに事業者に提示することを目的としている。同会長は、革新的技術を継続的に取り入れていけば、原子力発電所の効率は一層向上すると断言。その証拠として、これまでの技術革新によって、2015年は原子力発電所の平均設備利用率が92%となるなど、近年は他の電源をはるかに凌駕する記録的な運転効率と信頼性が達成された点を指摘している。