世界原子力協会、既存炉の早期閉鎖防止でエネ政策の改革訴え

2016年6月6日

 原子力産業を支援する世界的な業界団体である世界原子力協会(WNA)は6月3日、電力市場での厳しい価格競争により稼働実績の良好な原子力発電所が早期閉鎖に追い込まれるのを防ぐには、エネルギー政策の改革法案が世界中で成立することが不可欠だとする声明文を発表した。この前日、米イリノイ州の州議会で原子力の恩恵に適切な見返りが得られる法案の成立見通しが立たず、事業者のエクセロン社が州内でクリントン、クアド・シティーズ両原子力発電所を早期閉鎖すると発表したのを受けたもの。WNAは、これらの発電所が有益な雇用を提供しつつ電力供給を保証し、地球温暖化にも貢献出来ると述べた。その上で、国際エネルギー機関(IEA)の「エネルギー技術見通し・2016年版」でも、原子力発電所の早期閉鎖防止で一層の支援が必要との認識が表明されていたとし、現在運転中の原子炉がCO2の排出量抑制に貢献すれば、将来にわたって温暖化防止の環境目標を長期的に達成していく一助になると呼びかけている。

 クリントン、クアド・シティーズ両発電所の閉鎖に伴う影響について、WNAはイリノイ州政府が実施した分析の結果を引用し、供給地域におけるエネルギー卸売コストが4億3,900万ドル増の年間6億4,500万ドルに拡大すると指摘。両発電所を維持しておけば、CO2の大量排出にともなう経済損失100億ドルを10年以上回避できるとした。また、A.リーシング事務局長の見解として「近年これら2つの発電所は特に稼働実績が良好だったが、イリノイ州やいくつかの国で問題なのは、原子力発電が提供する低炭素で信頼性のある電力の価値を電力市場と環境政策が適正に評価していない点だ」と明言。原子力発電の抑制政策を取っている国の例として、スウェーデンでは原子力発電所の容量税を発電所人件費の2倍以上のレベルに上げていった結果、オスカーシャムとリングハルス両原子力発電所で合計4基を早期閉鎖しなければならなくなった。フランスでも現行のエネルギー政策により、原子力発電シェアを50%まで削減すべきだと恣意的に定められており、これまで原子力と再生可能エネルギーの組み合わせで両国が積み重ねてきた電力の低炭素化実績が、こうした決定により台無しになるとしている。

 同事務局長によると、世界中の国々で補助金や税金、短期的戦略などが入り乱れ、すべての低炭素電源が連携し合って効果的に働くような、公平な競争環境が提供されなくなった。こうしたことは経済に悪影響がおよぶだけでなく、雇用や地球環境にとっても良くないことだと訴えている。