米エネ省:先進的原子力技術の研究開発支援で8,200万ドル投資
米エネルギー省(DOE)は6月14日、原子力エネルギー関係の研究、施設の共用、分野横断的技術の開発、インフラ整備など、全米28州の93プロジェクトに対する2016年度分の投資として、合計8,200万ドルを提供すると発表した。米国において低炭素電力の6割を賄う原子力発電は、信頼性のある電力を適正価格で提供できる電源というだけでなく、地球温暖化を防止する重要要素としても認識されており、DOEは科学者やエンジニアが先進的な原子力技術の研究開発を継続し、商業化にこぎ着けるよう支援するため、毎年「原子力エネルギー大学プログラム(NEUP)」や「原子力エネルギー実践技術(NEET)」、および「原子力科学ユーザー施設(NSUF)」などのプログラムを通じて、数千万ドル規模の投資を実施。また、このような財政的支援に加えてDOEは昨年11月、既存炉で安全かつ信頼性のある経済的な運転を保証しつつ、先進的な原子炉設計の商業化に資する技術面や、規制面での支援を原子力コミュニティに対して行うイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」を起ち上げた。これらのプログラムにより、先進的な原子力関連研究で必要となる資金を産官学すべてに提供し、国内原子力産業の健全性を長期的に維持していく考えだ。
・「原子力エネルギー大学プログラム(NEUP)」
NEUPはDOEの原子力局(NE)が大学向けの支援策を統合して2009年に起ち上げたもので、科学とエンジニアリング分野の学部やトップレベルの学生に民生用原子力発電における革新的技術とソリューションの開発機会を提供。全米の原子力研究開発において米国がリーダーシップを維持することを目指しており、今回は、24州の49大学が主導する原子力研究開発プロジェクトに約3,600万ドルの提供が決まった。これに加えて、全米の15大学が研究炉と関連インフラの改良用に合計600万ドルを受け取る予定。研究炉の安全性能や学生教育用インフラのアップデートに使われることになる。
・「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」
GAINは、DOE所有の複合施設や国立研究所の設備や人材、物質およびデータなどにアクセスする窓口の提供を目的としており、今回発表された資金提供は、GAINを実行に移す初回活動の一部でもある。まずNSUFを通じて、世界規模の中性子・ガンマ線照射と照射後試験サービスへのアクセス窓口をGE日立ニュークリア・エナジー社などに提供するため、200万ドルの使用を可能にするとした。また、技術革新の官民連携モデルとして、ウェスチングハウス社が主導する1プロジェクト、および同社が協力する国立研究所等の主導プロジェクト2件に対し、約300万ドルを拠出予定。これらのプロジェクトでは、原子力施設内の先進的コミュニケーション手段の開発が行われる。GAIN関連でDOEはさらに、溶融塩炉や小型モジュール炉(SMR)の研究開発を実施している小規模企業8社に対して、合計200万ドル分の原子力バウチャーを与えると発表した。この「原子力バウチャー試験プログラム」では、これらの企業による革新的技術の開発と商業化を支援し、原子力分野への新規参入を促すため、NSUFの加盟施設や国立研究所など広範な施設の利用を許可するとしている。
・「原子力科学ユーザー施設(NSUF)」と「原子力エネルギー実践技術(NEET)」
NSUF全体では、DOEは8件の大学プロジェクトと2件の国立研究所プロジェクト、産業界主導の1プロジェクトを対象として選定しており、原子燃料と核物質に関するこれらの研究プロジェクトで必要な中性子やイオンの照射試験および照射後試験施設、シンクロトロンなどの利用経費と専門的知見に対して900万ドルを提供。このほか、オークリッジ、パシフィック・ノースウェスト、およびアルゴンヌの3つの国立研究所が実施する物質と計装関係の研究に100万ドルを支出する。また、NEETでは7つの原子力研究開発プロジェクトに対して、700万ドルを提供するとしている。