IEAが特別報告書:「既存のエネルギー技術と政策で大気汚染による死亡者半減へ」
国際エネルギー機関(IEA)は6月27日、毎年発行している「世界エネルギー見通し(WEO)」の2016年版・特別報告書として「エネルギーと大気汚染」を発表した。世界保健機関(WHO)の見積もりでは世界中で年間650万人の死亡が大気汚染に関連するとされており、人工の大気汚染物質排出源としては最大であるエネルギー部門で汚染物質の放出を抑えない限り、この数はさらに増加する見通しだ。これに対してIEAは、世界中でエネルギー供給と清浄な大気、両方の必要性を調整するという実用的かつ達成可能なシナリオを提案。既存のエネルギー技術や政策に基づくこの戦略に沿って、エネルギー部門への投資をわずかに増加させれば、人類の健康にとって4番目に大きな脅威である大気汚染物質の排出量を2040年までに半減させることが可能との認識を示している。
IEAは今回の特別報告書で初めて、大気の質に関する詳細な分析を実施しており、この中でエネルギーと大気汚染、および人々の健康との関連性に焦点を当てた。汚染物質の排出量に関する2015年の最新データと2040年の予測に基づいて、エネルギーと大気汚染についての世界予測を示すとともに、この関連で重要地域となる東南アジアやアフリカのほかに、米国、メキシコ、中国、インド、欧州連合といった特定の国々についても分析を行った。
「清浄な大気シナリオ」戦略の実行を勧告
現在、生産・消費されているエネルギーの多くは、無秩序で非効率な燃料の燃焼から出たもので、大気を汚す主なものとしては85%の粒子状物質と硫黄酸化物および窒素酸化物が挙げられる。これらは工場や発電所、自動車、トラックなどから毎年数百万トン、大気中に放出され、このような屋外の汚染物質により早死にする人の数は、現在の300万人が2040年までに450万人に増えると予測されている。この問題に対する関心が高まり、COP21以降のエネルギー源の移行が加速されることで、2040年までに汚染物質の排出量は世界的に見ても緩やかな減少傾向を辿る。しかしながら、問題を解決するにはほど遠く、地球規模の変化は地域毎に状況が大きく異なるという事実を分かりにくくしている。
IEAのF.ビロル事務局長によれば、清浄な空気は世界の多くの人々に不足している基本的人権の1つだが、未だにこの問題を解決したと言える国はない。ただし各国政府に行動力がないわけではなく、彼らは今こそ行動を起こす必要がある。実績のあるエネルギー政策や技術を通じて、大気汚染物質を世界中で大幅に削減し、健康上の恩恵をもたらし、エネルギー源を幅広く利用するとともに、その持続可能性を改善することができるとした。
そのためにIEAが策定した戦略が様々な国の状況に適合する「清浄な大気シナリオ」であり、ここでは2013年に135億4,600万トン(石油換算)だった世界の一次エネルギー需要量が2040年には156億6,300万トンに増加する見通し。これに対して原子力から供給するエネルギー量は、2013年の6億4,600万トンが2040年には11億8,000万トンに倍増すると予測している。同戦略はまた、2040年までにエネルギー部門への総投資を7%増加するなど、エネルギー政策上の選択によって、いかに人々の健康を大幅に改善できるかを実証。例えば、発電部門では汚染物質の排出制限とエネルギー源の移行が重要で、その中には産業界におけるエネルギーの効率化推進や、道路輸送に対する厳しい排出基準の強制などがある。
ビロル事務局長はまた、「地域社会が経済的な発展と引き替えに清浄な空気を犠牲にさせられることがないよう、我々はエネルギー開発の手法を見直す必要がある」と指摘した。「清浄な大気シナリオ」戦略を実行に移せば、すべての国でエネルギー関連の大気汚染レベルが大幅に低下。また、各国で近代的なエネルギー源を利用する幅広い機会がもたらされるとともに、世界全体で温室効果ガスの排出量や化石燃料の輸入経費削減につながる。同戦略に沿って各国政府が行動を取るべき分野として、報告書は以下の点を挙げている。すなわち、
(1)大気の質を改善する意欲的な長期目標を設定する。同目標にはすべての関係者が同意するほか、様々な汚染軽減オプションについて有効性を評価する。
(2)上記の長期目標を達成するため、エネルギー部門に一連の大気清浄化政策を導入する。ここでは排出量の直接制御や規制など、コスト効果のある策を併用し、他のエネルギー政策目標と共通の恩恵がもたらされるよう考慮する。
(3)政策の実施に際して効果的な監督、強制、評価、情報公開を行う。戦略がコースを外れないよう、信頼性のあるデータを収集するほか、政策の遵守状況と改善を継続的に実施。タイムリーかつ透明性のある情報公開を行う--である。