英監査局が報告書:「英国の新設計画は他国より高額かつ進展が遅い」
英国行政府の予算執行状況を監査し、議会に報告する義務を担う監査局(NAO)は7月13日、英国が国内の発電システムについて今後20年間に直面するいくつかの課題、および担当機関であるエネルギー気候変動省(DECC)(メイ新政権の発足にともない13日付けで廃止が決定)の目標と責任について分析した報告書を公表した。原子力発電所の新設計画に対する特定の対策も含め、DECCが新規の発電設備について展開している投資促進政策や、同省が管理しなければならないマネー・リスクの規模なども分析。その上で、国内で進められている原子力発電所新設計画は、その他の国における計画よりも高額で進展も遅いと結論付けている。
NAOの説明によると、今回の報告書はヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所建設計画を支援するために政府が実施する取引について、将来的に作成される報告書に背景事情を提示する役割がある。新規の原子力設備建設に関する結論としては以下のように解説した。
DECCが原子力発電に対して期待しているものは、低炭素でコスト効果が高く、信頼性のある電力を英国で長期的に供給するなど、バランスの取れた電源ミックスの重要部分を形成すること。このため、2035年までに新たに約1,400万kWの原子力発電設備の建設を計画しているが、これには巨額の初期投資や長期の建設期間といった、原子力特有の障害が存在する。フランス電力(EDF)はHPC発電所を建設する10年間に、資金調達コストを除いても180億ポンド(約2兆5,000億円)が必要になると試算したが、このほか使用済燃料の処分や運転終了後の廃止措置でもコストがかかる。英国では1990年代以降、原子力発電所の新設経験がないということもあり、新規の原子力発電所建設コストは他の国よりも高くなることが予想される。また、資金の回収に長期を要するため、その間に投資家は、政府による政策変更などで収益低下に見舞われることもあり、原子力開発プロジェクトに付随するこのような政策上、技術上、建設上のリスクが資金調達を難しくしている。
原子力新設計画への投資におけるこれらの障害を取り除くため、政府はいくつかの対策を導入した。その1つが発電された電力の差金決済取引(CfD)で、その他の低炭素電源に対するCfDの多くが15年間適用なのに対し、HPC計画のCfDでは1MWhあたり92.50ポンド(約12,862円)という行使価格が35年間有効。政府はまた、行使価格の契約交渉をEDFと直接行っており、同価格を最小化するのに有効な競争原理に基づく慣行に従わなかった。すなわち、建設コストが低く済んだ場合に顧客は予想より高額の利益を得ることになり、DECCではこうした取引の成立により、後続の新設プロジェクトに道を拓くような広範な自信が投資家に生まれることを期待している。また、英国における原子力発電所新設計画への投資促進策は、その他の低炭素技術に対するものより進展速度が遅い。最も進んでいるHPC計画は唯一、政府から開発同意書とサイト許可(NSL)、および規制上の承認を取得済みだが、EDFの最終投資判断はかなり遅れており、設備の建設を始める時期になっても不明確なままだろう。