英国の議会特別委員会、「ウィルヴァ・ニューウィッド計画は金額以上の価値あり」と結論

2016年7月28日

 英国議会下院のウェールズ問題特別委員会は7月26日、「ウェールズ地方における原子力発電の将来」と題する報告書を公開し、日立製作所が傘下のホライズン社を通じて進めているウィルヴァ・ニューウィッド(ウェールズ語で「新しいウィルファ」)原子力発電所建設計画は英国で将来的に必要となるエネルギー需要のかなりの部分を賄うとともに、発電電力の取引価格(行使価格)があまりに高額にならなければ、支払う金額以上の価値をもたらすことができるとの結論を明らかにした。また、同地方で閉鎖済みのトロースフィニッド原子力発電所は、研究開発中の小型モジュール炉(SMR)の初号機建設サイトとして最適との見解を表明するなど、ウェールズ地方で今後も原子力産業を維持していく必要性を強調した。同委は、議会の行政監視機能面で重要な役割を果たすという「省別特別委員会」の一つで、その調査報告書は直接または間接的に政府の政策決定に影響をおよぼすことになる。

 ウェールズ地方ではかつて、ウィルファAとトロースフィニッドの両原子力発電所で合計4基の旧型ガス冷却(マグノックス)炉が稼働していたが、現在は両方とも閉鎖済み。英国全体でも経年化した既存炉の多くが今後10年以内に閉鎖されていくことから、政府は新たに160万kWの原子力設備を確保するため、5つのサイトで12基の原子炉建設を提案している。そのうちの1つであるウィルヴァ・ニューウィッド(ウィルファB)計画では、少なくとも270万kW分の日立GE社製UK-ABWRを2020年代前半に建設することが予定されている。このため、同特別委員会では計画の詳細と影響、ウェールズ地方全体における今後の原子力産業の在り方などを調査するため、今年1月から様々な聴聞会の開催を含む証拠収集活動を開始したほか、閉鎖された2つの原子力発電所を視察するなどして次の点を検証した。すなわち、同計画が日程通りに進展する可能性や必要経費とその価値、発電電力の行使価格と電気代への影響、地元アングルシー島とウェールズ地方の経済と環境に与える影響、閉鎖済み発電所における廃止措置の実施状況と経済的影響、SMRをトロースフィニッドに建設する可能性とその影響--などである。結果として同委が導き出した結論と勧告は以下の通り。

新設計画のコストと日程、経済効果、廃棄物処分、SMR開発
 ウェールズ地方で稼働していた2つの原子力発電所は多くの発電電力と数千人分の高給雇用を供給したが、ウィルヴァ・ニューウィッド計画も地元アングルシー島とウェールズ北部の広い地域に大規模な経済的推進力をもたらす。同計画が創出する数千もの雇用をウェールズ北部で確保することは非常に重要で、そのためには個人や企業向けに原子力関連の技能訓練プログラムが必要。英国政府は今年5月、サマセット州とカンブリア州で原子力分野の国立大学を創設する構想に1,500万ポンド(約20億7,200万円)の拠出を約束したが、ウェールズ北部にキャンパスを設置する計画がないのは驚くべきことだ。

 国内で原子力発電所を新設するという判断に異論がないわけではなく、2011年の福島第一原子力発電所事故により原子力発電の安全性には改めて厳しい視線が注がれることになり、ヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所計画で設定された行使価格は、金額に見合うだけの価値が原子力発電にあるかという問題を提起した。当委員会は、ウィルヴァ・ニューウィッド計画が英国で将来必要なエネルギー需要の相当部分を賄うとともに金額に見合った価値をもたらすと確信するものの、それには開発事業者と政府が計画遅延の可能性といった潜在的障害に対処し、経費節減と日程通りの計画推進を期していく必要がある。政府はHPC計画に対して、92.50ポンド(約12,780円)/MWhという高額の行使価格を約束したが、エネルギー政策では供給保証と環境対策の両面でコストのバランスを取るべきであり、ウィルヴァ・ニューウィッド計画ではHPC計画より低価、かつ再生可能エネルギーに対して競争力のある価格設定を勧告する。同価格があまりにも高額になる場合、政府はプロジェクトを継続すべきではない。        

 英国政府はまた、既存の原子炉から出た放射性廃棄物と新設原子炉が将来排出する廃棄物の取り扱いにも対処しなければならない。ウェールズでは原子力発電所内で廃棄物を安全に保管しているが、恒久的な解決策は必要。廃棄物が適切に取り扱われることを国民に保証するためにも、政府には深地層処分場(GDF)の建設サイト選定作業を加速するよう勧告する。

 英国政府はこのほか、原子力開発利用国の中でも研究開発を牽引するトップ集団に属したいとの意欲を表明しているが、この関連で当委員会は英国がSMR開発を進めることを切望する。SMRは未だ開発途上ではあるものの、それを進める価値のあるオプション。開発が成功に導かれるよう、政府は規制面と事業面で適切な環境を整えるといった支援を行うべきであり、開発できた場合はウェールズ北部のトロースフィニッドが初号機の理想的立地点になるだろう。