米NY州:州内の3原子力発電所維持を含めた「クリーン・エネルギー基準」 承認

2016年8月2日

米ニューヨーク(NY)州の公益事業委員会(PSC)は8月1日、州北部に立地する3つの原子力発電所への補助金プログラムを含めた包括的かつ意欲的な温暖化防止政策「クリーン・エネルギー基準(CES)」を全会一致で承認した。同プログラムにより、J.A.フィッツパトリック、R.E.ギネイ、およびナインマイルポイントの3原子力発電所には2017年4月以降、最初の2年間に合計9億6,500万ドルの追加利益が与えられると見られており、事業者が検討していた早期閉鎖が回避される可能性が出てきた。フィッツパトリック発電所を所有するエンタジー社は昨年11月、低価格な天然ガス等により収益が大幅に悪化した同発電所を2017年初頭に閉鎖する方針を表明。また、ギネイとナインマイルポイント両発電所を所有するエクセロン社は今年7月、NY州が原子力への補助金プログラムを承認した場合、これらに2億ドルを再投資して運転を継続するとしたほか、フィッツパトリック発電所についても、エンタジー社から購入する交渉を開始していた。今回のPSC発表を受けてエクセロン社は、2017年春にも2億ドルの再投資を実行に移すと明言。エンタジー社との交渉も継続が可能になったとの見解を示している。

米国では、2030年までに発電部門からのCO2排出量を2005年レベルから32%削減することを目指したオバマ大統領のクリーン・パワー計画に基づき、環境保護庁(EPA)が各州政府に対して温室効果ガスの排出量削減を実現するエネルギー計画の作成を指示。各州ではそれ以前から、総発電量のうち一定割合を再生可能エネルギーとするよう、電気事業者その他のエネルギー供給業者に義務付ける「再生可能エネルギー電力基準(RES)」の設定を30州とワシントンDCが実施。そのほか、目標割合の自発的な達成を求める「再生可能エネルギー電力目標」の設定を7州が実施していた。RESに原子力その他の低炭素電源を加えたCESで、NY州は再生可能エネルギーの発電シェアを2017年に26.31%、2021年に30.54%、2030年までには50%にすると義務付けており、北部の3原子力発電所の運転継続はこれを達成する重要な橋渡し手段という位置付けである。

これらの発電所を念頭に、PSCスタッフは7月8日、CO2を出さない発電設備に対する財政支援プログラム「ゼロ排出クレジット(ZEC)」を提案するとともに、これに対するコメント募集を開始した。ZECでは、政府の省庁横断型作業部会(USIWG)が算定する「炭素の社会的費用(SCC)」等の指標に基づいて、PSCが2年毎にMWhあたりの補助金額を設定。有資格と認められた電力小売事業者と卸売会社はNY州エネルギー研究開発局(NYSERDA)から同クレジットを購入する複数年契約を結び、原子力発電事業者はそれに従って2029年3月末までの12年間、PSCから支払を受けることになる。

今回の発表の中でPSCは、「CO2を排出しない原子力発電の維持はNY州が意欲的な温暖化防止目標を達成するための重要要素であり、2017年4月から州内の6つのエネルギー供給業者はCESに従ってゼロ排出クレジットの購入が義務付けられる」とコメント。これにより、財政難に陥った北部の3原子力発電所は再生エネで50%の発電シェアを達成する2030年までの期間、運転の継続が可能になるとした。また、温暖化問題に関する科学者の多くが指摘した予測として、「仮にこれらの原子力発電所を早期閉鎖した場合、NY州におけるCO2排出量は最初の2年間で3,100万トン以上増加し、州民の健康およびその他の社会的影響で必要となる経費は少なくとも14億ドルに上る」ことを強調した。