IAEAの評価ミッション、中国に原子力安全法の採択など勧告
国際原子力機関(IAEA)は9月8日、加盟国の原子力安全規制制度や組織を総合的に評価する専門家チーム(IRRS)が中国における10日間のレビュー・ミッションを終えたと発表した。2010年に実施した初回ミッション以降、中国は福島第一原子力発電所事故による教訓の反映も含め、ほとんどのIAEA勧告と示唆を様々な項目について実行に移しており、原子力・放射線安全の規制枠組は効果的に機能していると評価。その一方、原子力開発の急速な進展を放射性廃棄物の管理政策や戦略に反映させることや、基本的な安全原則を定めた原子力安全法案の採択に向けた作業の推進といった努力を続けていくべきだと勧告した。IRRSチームは、こうした内容の暫定報告書を中国政府および環境保護部の国家核安全局(NNSA)に提示済みだが、今後3か月以内に最終報告書をとりまとめて提出する予定。中国側ではその要旨を一般公開する方針をIAEA側に伝えている。IRRSミッションは、原子力安全の保証責任が各国政府にあることを認めつつ、加盟国における国家的原子力規制インフラの強化を目的に、加盟国の要請を受けて派遣されるもの。今回のミッションでは、米英やカナダ、チェコ、フィンランド、ドイツ、パキスタンなどの専門家に3名のIAEAスタッフを加えた合計14名が、中国の関連法や規制、ガイドラインその他の文書をIAEAの安全基準や国際的な良慣行に基づいて審査した。また、NNSAや事業者のスタッフおよび上級幹部と協議する機会を設けるとともに、原子力発電所や放射線技術関係企業、国家原子力緊急対応技術支援センターを視察したという。
中国では現在、32基の原子炉が営業運転中で、初回ミッション時より22基増加したのに加えて、建設中の基数は世界最多の24基となっている。IAEAの今回の発表によると。同国はさらに2020年までに約90基を運転中あるいは建設中とする計画で、原子力発電シェアは2015年時点の3%を2020年には4%に拡大する予定。研究炉も国内に19基、核燃料サイクル関係施設は100近くあるほか、12万もの放射線源装置が使われている。このように比類無い規模で原子力の利用拡大計画が進められている状況では、効果的な規制を行う能力の確保で規制当局には財政資源上の難題がもたらされるとIAEAは指摘。2010年の初回ミッションから6年の間に中国における規制枠組は大きく発展したものの、次回の本格審査は2020年までに行うことを勧告した。
今回の中国ミッションでIRRSチームが「良慣行」と認めたのは次の2点。すなわち、(1)特別に開発したコンピューター・ソフトを使って、規制当局スタッフが情報と規制経験を広範囲に共有している、(2)緊急時に避難の必要性がある区域について、道路や人口規模のデータをコンピューター分析するなど、NNSAと原子力・放射線安全センターが独自に地元の避難計画を練っている、--である。一方、さらなる改善が必要な点については、次のような勧告と示唆を提示。すなわち、(1)規制当局の独立性と透明性を法的に保証する原子力安全法案の採択に向けた努力を継続すべき、(2)NNSAは事業者に対して原子力発電所と核燃料サイクル施設以外の施設についても廃止措置用の引当金を確保させるべき、(3)NNSAは原子力発電所の運転期間延長申請に対するガイドライン、およびその審査プロセスを制定すべきである--となっている。