英政府、中国が出資するヒンクリーポイントC計画を条件付きで承認
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は9月15日、T.メイ政権が国内で約20年ぶりの原子力発電所新設計画となるヒンクリーポイントC(HPC)プロジェクトを、いくつかの条件付きで進める判断を下したと発表した。同プロジェクトの全要素を包括的に審査した結果、事業者の親会社であるフランス電力(EDF)と改めて原則的な合意に達した事項として、英政府はEDFによるプロジェクトの支配権売却を阻止できるとしたほか、HPCプロジェクト以降の原子力新設計画も含め、英国の重要インフラに対する外国資本の投資に政府が介入権を持つなどの新たな法的枠組を設置するとしている。総投資額180億ポンド(約2兆4,300億円)というHPCプロジェクトについて中国広核集団有限公司(CGN)は33.5%の出資を約束しており、後続のサイズウェルC原子力発電所計画では20%の出資、ブラッドウェルB原子力発電所計画については中国が知的所有権を有する「華龍一号」を採用することで、同社は2015年10月にEDF側と合意。こうした背景から今回の政府決定は、国内重要インフラの一部を中国が保有することへの国家安全保障上の懸念を大きく反映した内容となった。
HPCプロジェクトの事業者であるEDFエナジー社は現在、英国内の商業炉15基をすべて保有しており、南西部サマセット州のヒンクリーポイントでは160万kW級のアレバ社製・欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設する計画。その経済的実行可能性を危ぶむ財務担当責任者や関係労組がプロジェクトの再考を求めるなか、EDF取締役会は7月末に10対7の僅差で同プロジェクトを進める最終投資判断を下していた。今回の政府決定を受けて、EDFグループは同日、2015年10月の中国側との合意内容および政府の要求事項に沿って、HPCプロジェクトの支配権を維持していく方針を表明。できるだけ早い機会にCGN、政府およびサプライ・チェーン企業との最終的な合意文書に調印したいとしている。EDFのJ.-B.レビィ会長も、「英政府によるHPCプロジェクトの推進決定は、欧州で原子力発電開発が再開したことを指し示すとともに、英国が低炭素電源の開発を通じて温暖化防止の取り組みをリードしたいと切望していること、世界的に名高いフランス原子力産業界の専門的知見とEPR技術に信頼を寄せていることを実証した」とコメントした。
HPCプロジェクトの実施条件
英国政府とEDFが原則合意した内容は以下のとおり。すなわち、関係閣僚による事前通知や合意なしに政府はEDFがHPC発電所の完成前に支配権を売却するのを阻止することができる。今回の合意内容は政府とEDFが書面を交換することで確定する。既存の法的権力と新たな法的枠組により、政府はHPC発電所が運転開始した後もEDFによる支配権売却に干渉できる。
また、重要インフラへの将来的な外国資本導入に対する新しい法的枠組としては、以下の点を明記した。HPCプロジェクト以降のすべての原子力発電所新設計画について政府は特別な所有権を持つこととし、大量の所有権が政府への通知や承諾なしに売却されることを防ぐ。原子力発電所の開発事業者や運転者は所有権の持ち主を一部でも変更する際、原子力規制局(ONR)に通知しなければならない。これにより政府は、所有権の変更にともなう国家安全保障上の防護アクションをONRに助言・指示することになる。
原子力に対するメイ政権のスタンス
BEISのG.クラーク大臣は、HPCプロジェクトの徹底的な審査を通じて政府が国内で数十年ぶりの原子力発電所新設計画を進める判断を下した背景について、「英国はエネルギー供給設備をアップグレードする必要がある」と指摘。将来的に低炭素なエネルギー供給を保証する上で、原子力が重要な一部分であることは、これまでどおり疑う余地が無いと述べた。BEISとしても、同プロジェクトで英仏が協働することで、両国間の連携関係と産業エネルギー分野における現行の協力活動が継続的に強化されるとの認識を明示。政府が取り組んでいる低炭素エネルギーの供給保証において、HPC発電所はその重要部分を占めるだけでなく、同発電所によって英国の原子力発電は新たな時代を迎えることになるとした。BEISはまた、同国で総発電量の約20%を賄う8サイトの原子力発電所では、ほとんどすべての原子炉が2030年までに閉鎖時期を迎えるという事実に言及。将来の世代に十分かつ多様化したエネルギー供給を保証するため、政府には今、決断する必要があったのだと説明した。HPC発電所が完成すれば、60年にわたって国内電力需要量の約7%を供給すると政府は期待。総工費180億ポンドのうち6割以上が英国企業に発注され、26,000人分の雇用創出につながるとの見通しを示した。