IAEA:原子力設備の長期的報告書で2030年までに最大56%拡大と予測
国際原子力機関(IAEA)は9月23日、世界の原子力発電設備に関する長期的な見通しを評価する報告書「2050年までのエネルギー、電力および原子力発電見通し」の2016年版を公表した。低価格な化石燃料と再生可能エネルギーの影響で前年版の見積から増加率が低下したものの、原子力発電設備容量は2030年までに1.9%~56%増加するとの予測結果を提示しており、「長期的に見れば原子力は世界のエネルギー・ミックスにおいて重要な役割を果たし続ける」と明言。人口と電力需要の増加に合わせて原子力発電は温室効果ガスの排出量を抑制しつつ、信頼性のある確実なエネルギー供給に貢献できるとの認識を表明した。
同報告書はIAEAが毎年刊行しているもので、2015年の実績値を盛りこんだ最新版は36版目。世界中の専門家が春にIAEAに集結し、2016年4月までの開発動向に基づいて将来的な設備容量の見積を行った。保守的ながらも妥当な予測値の算出を目的とする「低ケース」は、市場状況や技術、資源について現在の傾向が続くことを前提としており、原子力発電に影響するような政策変更もほとんどないという設定になる。一方「高ケース」では、アジア地域を中心に経済成長と電力需要の増加率が現行のまま続いていくと想定。COP21のパリ協定に基づく温室効果ガス削減努力の一助として、原子力が加盟国で一層大きな役割と果たすことを前提としている。また、見積評価に当たっては各国のエネルギー政策、原子力発電所の運転認可更新や閉鎖、および将来的な建設計画などに関する不確定要素が影響するため、2030年から2050年までの長期予測では、その度合いが広がることを注記している。
複数のファクターが容量の増加を圧迫
福島第一原子力発電所事故以降の傾向に沿って、世界では原子力設備の増加率が鈍化していると報告書は指摘。前年版で2030年までの増加率を2.4%~68%としていたのに比べ、最新版は2015年に3億8,290万kWだった容量が低ケースで1.9%増の3億9,020万kWに、高ケースでは56%増の5億9,820万kWになると予測した。短期的に見る場合、複数のファクターが原子力設備の拡大を抑えるとしており、具体的に低価格な天然ガスや再生可能エネルギーのコスト低下、低炭素エネルギーに対する市場シグナルの不足などを列挙。福島第一事故後に導入された厳しい安全要件、先進的な安全系を有する次世代技術の開発もまた、原子力設備の拡大を圧迫したと説明している。報告書はまた、世界で稼働する原子炉約450基のうち、半数以上で運転期間が30年を超えるなど、経年化が進んでいる事実に言及。低ケース予測では設備容量が僅かしか増えないように見えても、実際は数多くの高経年化炉でリプレースの必要性が生じるので、新設される合計容量は見かけの増加量よりかなり大きくなる。このため報告書は、今後15年間に新設される原子力設備は、低ケースでも約1億5,000万kWにのぼると推測している。
中国、インドを中心に容量拡大へ
地域別の原子力設備について報告書は、中国や韓国などを中心とする極東地域で増加率が最大になると予測。同地域における2015年の容量実績9,380万kWは、2030年までに低ケースで1億3,220万kWに、高ケースでは2億1,550万kWに増加するとした。また、インドは南アジアと中東地域における容量増加の牽引役になるとしており、これら地域の合計設備容量は2015年実績の690万kWが低ケースで2,770万kW、高ケースで4,770万kWに拡大する。東欧諸国では増減が入り交じった状況になっており、ロシアを含むこれらの地域で現在建設中の原子炉は、ベラルーシ初の原子力発電所となる2基を含めて7基。低ケース予測では2015年実績の5,050万kWが2030年までに4,990万kWと僅かに減少する一方、高ケースでは7,570万kWに増加する見通しである。西欧諸国については、報告書は大幅に容量が低下する可能性を指摘。2015年に1億1,210万kWだった容量は、ドイツの脱原子力政策を反映して低ケースで7,700万kWに減少するほか、高ケースでも1億1,180万kWに留まるとの見方を示した。北米でも、2015年の容量1億1,270万kWが低ケースで9,250万kWに減少するとしたものの、高ケースでは1億2,600万kWに増加するとの予測結果を提示している。