EUの諮問委員会、一層包括的な原子力戦略策定をECに勧告

2016年9月27日

 EU(欧州連合)における政策諮問委員会の1つである欧州経済社会評議会(EESC)は9月22日、欧州委員会(EC)が域内原子力発電所の全ライフサイクルで必要になる投資額の試算で今年4月に改定した「原子力の説明プログラム(PINC)」に対し、原子力発電の利点をもっと強調するなど一層包括的な原子力戦略になるよう、実質的な改定の実施を勧告した。EU域内では、14の加盟国で稼働する原子炉129基がEUにおける発電電力の約27%を供給。低炭素電力の主要電源の1つであり、EUのエネルギー・ミックスにおける重要要素であり続けることから、PINCでは2050年以降に少なくとも9,500万kWの原子力設備を維持するために3,500億~4,500億ユーロ(約36兆7,000億円~51兆円)の投資が必要だと明記していた。EESCはこのような内容を審議した結果、同日の本会議で「原子力が有する経済的な競争力や、エネルギー供給保証と温暖化防止およびCO2の削減目標達成における貢献、国民受容、原子力損害賠償、透明性、加盟国間の効果的な対話に関する項目をPINCに盛りこむべきだ」との意見書を採択した。EESCエネルギー・輸送部門のP.-J.クーロン議長は、10月にスロバキアのブラチスラバで開催される欧州原子力フォーラム(ENEF)本会議の席上、同意見書に基づく提言を加盟各国の政策決定者に対して行う予定である。

 EESCはEU域内の労働者や雇用者など、社会経済的な市民利益団体を代表する評議員で構成されており、EU理事会とECが一部の政策分野で決定を行う際、立法手続の1つとしてEESCに意見を求めることになっている。EESCの勧告担当者はECのPINC案について、「欧州における原子力発電の将来に対して、明確かつ包括的なアプローチを提案していない」と指摘。このことは、最近のヒンクリーポイントC原子力発電所建設計画に関する議論でも改めて露呈されたと述べており、「福島で大惨事があった後も、域内の住民は長期的な原子力計画の策定をきちんと要求しているし、今回の意見書はEUが誓約を果たしていく上で、最終的な一助となるような欧州のエネルギー・ミックスについて、考え方の再調整を行うのが目的だ」とコメントした。

加盟国間の効果的な対話と住民の信頼
 EESCによると、実際に原子力は多くの加盟国において政治的に微妙な問題となっている。そのためECに対しては、この機会にエネルギー・ミックスにおける原子力の役割を明確に分析するプロセスや方法論をPINCで提案すべきだと勧告。これにより、加盟国は国内の政策決定において一貫性のある枠組を得ることができる。これに関しては、加盟国間で綿密に調整することやステークホルダー間の協力改善、原子力問題への透明性確保と住民参加の促進を最優先にすべきだとした。EESCはまた、EU全体で原子力発電に対する様々な意見があるが、現実を十分に把握しているとは言えず、これが政治的な容認性にも大きく影響していると指摘。これについては、オフサイトでの幅広い作業に一層多くの情報を提供すること、国境を越えた緊急時体制やテロリストによる潜在的な脅威への対応策を整えるよう呼びかけている。

透明性の確保と将来的な計画策定

 EESCは意見書の中で、EU域内の多くの原子力発電所で10~20年の運転期間延長プログラムが準備中となっており、そのための総経費が450億~500億ユーロ(約5兆1,000億円~5兆6,700億円)と見積もられている点に言及。2025年までに約50基が閉鎖予定で、廃止措置には2,530億ユーロ(約28兆6,900億円)が必要と見積もられているものの、専用基金には1,330億ユーロ(約15兆円)しか確保されていないとした。また、今後の主な不確定要素として、COP21のパリ協定がどの程度実行に移されるかや、国際市場における化石燃料価格の不安定さ、新しい技術が適用される度合い、世界的な経済見通しの影響、エネルギー供給チェーン全体でどの程度の投資が必要になるか--などの点を指摘。その上で、エネルギーの供給保証や適正な価格、環境面での持続可能性など、エネルギー問題が抱えるジレンマを住民が理解することは極めて重要な役割を果たすと強調しており、将来の課題に立ち向かえる堅実なエネルギー政策を具現化するためには、こうした側面を受け入れねばならないと訴えている。