欧州原子力産業会議連合が政策方針書:「EUの脱炭素化で原子力は重要」

2016年10月7日

 フォーラトム(欧州原子力産業会議連合)は10月4日、欧州委員会(EC)がスロバキアのブラチスラバで開催していた「欧州原子力エネルギーフォーラム(ENEF)」本会議の席上、経済の活性化と電力供給を保証しつつEU(欧州連合)の発電部門を2050年までに脱炭素化させるには、原子力が大きく貢献するとの政策方針書を公表した。EU域内で現在、原子力が果たしている重要な役割を指摘する一方、低炭素エネルギー開発プロジェクトに対する投資意欲の減退などEUのエネルギー市場が抱える課題に言及。原子力を含むすべての低炭素エネルギーに適切な投資が行われるよう、新たな市場設計が必要だと訴えている。

 フォーラトムはまず、EU加盟国の半数にあたる14か国で稼働中の原子力発電所が、欧州における電力需要の27%、低炭素発電量の50%を賄っている事実を強調。原子力は域内における輸入化石燃料への依存度を大幅に軽減しているだけでなく、稼働率の高い成熟した発電技術として欧州のエネルギー供給保証の強化という点で安定した地位を占めているとした。しかしながら、現在のEU電力市場が持続可能な設計になっていないことや、化石燃料と電力卸売価格の低迷は、EUが温暖化防止政策における2030年の目標やCOP21の誓約を果たす上で困難に直面することにつながると明言。具体的には、不完全な補助金制度がエネルギー市場を歪め、卸売スポット価格の低下と設備容量の超過、および消費者価格の高騰を招いていると指摘。低炭素エネルギー開発への新たな投資を促すため、適切な長期価格を保証するシグナルが必要だと説明した。

 こうした背景からフォーラトムは、すべての発電プロジェクト、特に原子力発電所の新設など大規模な低炭素電源プロジェクトに対する投資家の信用を回復するため、市場設計を改良するアクションの必要性を指摘。電力価格が変動リスクにさらされないよう電力取引において長期的な価格を保証し、新たな投資を促進する手段として、互恵的な長期契約や差金決済取引(CfD)などを提案した。また、低炭素発電技術はすべて資本集約型であり、それらを市場に統合するには長期的な資金供給が必要との見解を明示。可能性のあるやり方として、EU域内のCO2排出量取引制度(ETS)が効果的なCO2価格をもたらすまでは、国際エネルギー機関(IEA)が提案したように、電力卸売価格におけるMWh毎の割増し額をCO2価格の増減に応じて調整する方式を導入すべきだと勧告した。

 フォーラトムのJ.-P.ポンセレ事務局長も、「欧州を低炭素エネルギーに方向付けるため、原子力や再生可能エネルギーなど、すべての低炭素エネルギー源への投資を促進する、新しい市場設計の提案をECに強く求める」と述べた。発電技術の間で分け隔てすることなく、すべての低炭素エネルギー源が公平な条件で競合できるようにすべきだと表明。このように市場が発電技術毎に中立であれば、原子力発電はCO2排出量の低減と経済の活性化という目標を満たしつつ、バランスの取れた安定した送電網の維持に貢献できるとの認識を示している。