世界エネルギー会議が報告書:「エネルギー産業が壮大な転換期」
様々なエネルギー問題の研究・分析を通して世界の政策決定者に助言や勧告を提供している世界エネルギー会議(WEC)は10月10日、「世界エネルギー・シナリオ2016-壮大なる移行」を公表した。世界では1970年以降、エネルギー需要が倍以上に増加するなど歴史的な成長率を示していたが、これとは著しく対象的に、1人あたりのエネルギー需要量は2030年以前にピークを迎える。今後数十年の間に技術革新や各国政府のエネルギー政策、需要増加率の減少見通しなどが世界のエネルギー産業に大きな影響を与えるとの分析結果から、WECは世界のエネルギー産業が根本的な移行期間に直面していると指摘。変化していく不確かな将来に向けた舵取りを行いつつ、現在のエネルギー・システムにおける整合性を維持していくため、産業界のリーダー達には新たな成長市場をターゲットとすることや、資本配分と戦略を再評価することなどを勧告している。
WECによると、1970年以降、急速に増加した世界のエネルギー需要は主に化石燃料によって満たされてきたが、将来の状況は異なると明言。人口増加率の減少、革新的な新技術、大きな環境変化、経済力や地政学的な勢力のシフトなどにより、エネルギー産業界に全く新しい世界をもたらすような混乱傾向が浮上し、エネルギー経済の形を変えつつあるとした。エネルギー産業界がこのように先が見えない世界に入ることをWECは「壮大な移行」と呼称。移行の結果、起こり得る事項を次のように列挙した。すなわち、
(1)新技術や厳格なエネルギー政策がかつてないほどエネルギーの効率化をもたらすため、世界の一次エネルギー需要は増加率が鈍化し、1人あたりのエネルギー需要量は2030年以前にピークを迎える、
(2)2060年までに世界の電力需要は倍増するが、これをクリーン・エネルギーで満たすために大規模なインフラ投資とシステム統合が必要になる、
(3)太陽光と風力による発電が驚くほど高い成長率で拡大し続け、エネルギー・システムにおける変革と新たな事業機会が創出される、
(4)石炭と石油に対する需要がピークを迎えた後、これらの資源は投下した資本の回収が出来ない民間企業の「座礁資産」から政府所有の「座礁資源」に変わる可能性がある、
(5)世界規模で輸送用燃料を多様化することは、エネルギー・システムを将来的に脱炭素化する上で最も克服するのが難しい障害の1つになる、
(6)世界の気温上昇を摂氏2度以内に抑えるには、これまでに各国が誓約した努力をはるかに超える、並外れた辛抱強い努力を必要とする、--などだ。
これらの項目それぞれについて、WECは2060年までの道筋を想定した3つの新しいシナリオを作成。比喩的に「モダンジャズ・シナリオ」、「未完成交響曲シナリオ」、および「ハードロック・シナリオ」と命名した。モダンジャズでは、数値的な混乱が生じる技術革新的で市場牽引型の世界を想定しているのに対し、交響曲は、一層知性的かつ持続可能な経済成長モデルを示しており、世界は低炭素な未来に向けて動いていく。一方、ハードロックでは、内向きの閉鎖的な政策や、持続不能で弱含みの経済成長に影響を受ける崩壊型の世界になるとした。
これらのシナリオを通じて分析した結果、WECはエネルギー産業界に対して、新たな政策や戦略、冒険的な投資の検討が必要になると提言。検討による影響が大きい分野、および取るべきアクションとして、資本の配分や戦略を見直すことや、アジアや中東、北アフリカなどの新たな成長市場をターゲットとして狙う地域に特定した。また、混乱を逆手にとって有効利用する新しい事業モデルを実行に移すこと、脱炭素化に向けた方針の策定、温暖化防止対策が引き起こす社会経済的な影響に取り組むこと--などを勧告している。