WNA:アジア版の「世界の原子力発電所実績レポート2016」公表
世界原子力協会(WNA)は10月25日、世界のエネルギー問題とアジアへの影響について協議する「シンガポール国際エネルギー週間」が開催されているのに合わせ、アジア地域の原子力発電開発動向に焦点を当てた特別版の「世界の原子力発電所実績レポート2016」を公表した。現在、世界で建設されている原子炉のうち、約3分の2がアジア地域におけるものであり、さらに50基以上の新設が同地域の原子力導入計画国で検討されている事実に言及。こうした開発の原動力としては、大規模な原子力開発を進める中国などでは特に、大気汚染の改善にあることなどを指摘している。
同レポートの前書き部分では、WNAのA.リーシング事務局長がまず世界全体の動きに触れ、2015年中に世界では7基の原子炉が閉鎖されたにも拘わらず、同年初頭に436基だった運転中原子炉数が同年末には439基に増加したと指摘。建設中の原子炉基数も過去25年間で最大となっており、この年に新設関係全般で実績が改善されたことを示しているとした。また、既存の原子力発電所は世界全体で総発電量の約10%を賄っており、低炭素電源による発電量では3分の1を供給していると強調。欧州のいくつかの国で原子力は国民受容の悪化や消極的な政策といった課題に直面し、米国でも一部の州の自由化された市場で原子力発電所が厳しい経済条件にさらされる一方、アジア地域では中国が原子力発電ハブとしての成長を続けており、インドは国外の技術を導入しつつ国産原子炉の新設計画も進めている。日本でも停止していた原子炉の最初の1基が2015年に新しい規制体制下で再稼働を果たしたほか、韓国がアラブ首長国連邦(UAE)に輸出した原子炉の初号機が完成に近づくなど、同地域の国々は今や、原子力発電所の新設と運転で世界を牽引していることを示唆した。
同レポートによると、アジア地域では2015年に134基の原子炉が合計4,000億kWhを発電しており、世界全体の原子力発電量の約16%を占めた。これをさらに拡大させる計画も確定済みとなっており、主要な原動力としては、世界で年間650万人を死に至らしめている大気汚染の軽減、温室効果ガスの排出抑制があると指摘。電力供給の改善なども挙げられるとしている。
建設中の民生用原子炉は2015年末に世界で66基あり、さらに158基が政府の承認待ちなどにより計画中。建設中原子炉の約3分の2にあたる38基がアジア地域にあるほか、約半数が東アジア地域のものであり、中国だけで高温ガス炉1基を含む24基が建設中だとした。新規原子炉の多くは、経済の急成長とともにエネルギー需要が拡大している発展途上国で建設されており、2030年までに新たに運転開始する原子炉の70%が中国、ロシア、インド、韓国の4か国で占められる見通し。また、原子力の導入を計画する9か国で50基以上の原子炉新設が検討されており、これらの多くは2030年以前に初号機の運転開始を見込んでいる。
原子炉の建設工期については、長くなった国や短くなった国など様々だとしたが、過去15年間に概して短縮されてきており、2015年の世界の平均値は1基あたり73か月。東アジア地域(中国、日本、韓国)における工期は一貫して約55か月となった一方、インドとパキスタンが位置する南アジア地域では、63か月から153か月までバラツキがあった。現在、23基の商業炉が稼働する韓国の平均値は59か月で、これは短縮に成功した例であるが、日本で1981年~2015年までに建設された原子炉35基の平均工期は47か月。中国の原子炉29基の平均工期は65か月で、東アジア地域における原子炉建設の規模やペースが、新設原子炉の工期短縮に貢献したとしている。