スイス:脱原子力の加速イニシアチブを国民投票で否決
11月27日にスイス全土で、脱原子力を5年前倒しで達成するというイニシアチブの是非を問う国民投票が行われ、反対票54.2%に対して賛成票が45.8%に留まったことが明らかになった。全26州のうち反対票が過半数を超えたのは20州にのぼるなど、同イニシアチブは明確に否決される結果になった。2011年の福島第一原子力発電所事故を受け、スイス連邦政府は2034年までに国内の原子炉5基を段階的に閉鎖するエネルギー政策を閣議決定したが、今年3月に今回のイニシアチブを提案した緑の党は、既存原子炉の運転期間を45年に制限することで脱原子力の達成日程を2029年に早めることを狙っていた。しかし連邦参事会(内閣)は、同イニシアチブが引き起こす急激な電力不足を補うことは不可能だとして、これをすでに否決していたほか、連邦議会下院も134対59で、上院も32対13で否決済み。今回の投票に際しては国民に反対票を投じるよう勧告していた。
同イニシアチブに関する連邦政府のウェブサイトによると、ライプシュタットとベツナウの両原子力発電所が立地する北部のアールガウ州、ミューレベルク原子力発電所の所在地であるベルン州、ゲスゲン原子力発電所を擁するゾロトゥルン州ではいずれも同イニシアチブへの反対票が6割近かった。また、中央部のシュビーツ州、ニドバルデン州、および北西部のアッペンツェル・インナーローデン準州の反対票は65~68%と特に高い。一方、フランスと国境を接する東部のジュネーブ州から北東部のヌーシャルテル州、ジュラ州、バーゼル=シュタット準州などにかけては、賛成票が過半数を超えていた。現地の報道によると、これらの州のいくつかでは来年から100%再生エネによる電力供給が始められる見通しだという。
スイスでは原子力発電所の運転認可に期間が定められておらず、連邦原子力安全検査局(ENSI)が安全性を保証する限りは運転継続が可能。事業者はコンスタントに安全性改善対策を取るよう義務付けられている。福島第一事故後は、連邦議会が承認した「2050年までのエネルギー戦略」に基づき、既存炉のリプレースは行わず、約50年間の運転期間を終えたものから段階的に閉鎖する方針が定まった。これに対して緑の党は、同イニシアチブを通じて原子力発電所の新設禁止と既存炉の運転期間制限を憲法に盛り込むことを計画。連邦政府のエネルギー政策を改定して、省エネとエネルギーの効率化および再生可能エネルギーの導入を促進すれば、原子力の不足分を補うことができると謳っていた。
同イニシアチブが可決された場合、ベツナウ1、2号機とミューレベルク原子力発電所の合計3基が2017年に永久閉鎖されることとなり、国内電力需要の約4割を供給していた原子力発電所からの発電電力は約3分の1削減されると連邦参事会は指摘。これほどの急激な電力不足を再生可能エネルギーだけで十分補うことは不可能という認識であり、脱原子力を現行戦略どおり徐々に進めることで、再生エネで代替していく時間的猶予が得られるとした。また、今後数年間にフランスやドイツから電力を大量輸入せざるを得なくなるが、それらは原子力発電所あるいは温室効果ガスを排出する石炭火力からの電力になるのみならず、国家的なエネルギー供給保障を危うくするだけだと強調。こうした点から緑の党によるイニシアチブに反対する意見を表明していた。