英国:原子力産業界が有能な人材の確保で戦略計画
約20年ぶりの原子力新設計画が進められている英国で、原子力関係企業などで構成される原子力技能戦略グループ(NSSG)が12月1日、今後必要になる有能な人材を確保するための活動を盛り込んだ戦略的計画を公表した。5サイトで具体的に進展中の原子力発電設備1,600万kW分の建設に際して、2015年に7万8,000人だった常勤雇用者数が2021年には11万1,000人に拡大するとNSSGは予測。政府や職業能力機関、支援組織などとの緊密な連携の下、理数系大卒者に対する長期的な就業チャンスの確保や、熟練労働者による次世代への知見継承の促進など、様々な活動を通じて原子力部門の意欲的なプログラムに要する有能な人材を必要なだけ雇用していきたいとしている。
NSSGには現在、原子力発電事業者としてEDFエナジー社や東芝が筆頭株主であるNuGen社、日立製作所が出資するホライズン・ニュークリア・パワー社のほか、英国立原子力研究所、原子力廃止措置機構(NDA)、原子力規制局(ONR)、原子力技能国立アカデミーが参加。同戦略計画の策定に当たっては、新たな原子力発電施設の建設・運転のみならず、既存炉による発電、古い炉の廃止措置や核防護プログラムの維持、廃棄物の安全な処理、関係する研究開発とエンジニアリングにおける世界のリーダー的地位の保持などで、原子力産業が将来的に必要とする技能や高度に熟練した人的資源をいかに確保していくかという目標達成に向け、国内原子力産業界のみならず、労働組合や政府とも協力したという。政府が2015年に打ち出した原子力技能維持戦略など、この分野における課題の取り組みでは過去数年間に一定の成果が上がっているとしたものの、大規模な新設計画が現実のものとなりつつある今や、大きな変革が行われるべきだと指摘。産業界が先頭に立って計画を行動に移す必要があるとしており、財政投資や技術開発も、熟練した有能な人材を最大限に活用した時にのみ、原子力部門を前進させることができるとした。適切な原子力技能を適切な時期に適切な場所で確保する上で、原子力技能の問題は産業界が責任をもって取り組む事項だと強調している。
NSSGによると、需要に合わせた人材の採用というものは単純かつ均一なプロセスではなく、必要とされる技能に合わせて3グループに分類されるとした。すなわち、(1)習得に時間のかかる特殊技能を持った少数の専門家、(2)原子力セーフティケース関係のエンジニアなど、原子力産業でのみ必要とされる技能の保持者、(3)建設工事関係のような一般的技能の持ち主--で、それぞれの必要者数は三角形を横に3分割したピラミッド型に模式される。現在進められている民生用の新設計画では(3)の人材確保が主な課題である一方、軍事や研究開発関連では(1)で一層多くの課題が存在するため、それぞれに異なるアプローチが必要になる。また、規模の点については、今後5年間に不足する90%が(3)のカテゴリーであることが労働力関係のデータベースで明らかになったと指摘。これには契約社員の活用など、必要数に応じた柔軟性のある配慮が必要になるとした。
このような課題や障害、および新設計画等の活動で技能者不足に陥るリスクを特定・定量化するため、NSSGでは幅広いリスク分析を実施しており、結果として3つの戦略的テーマを導き出した。それらは、(1)人的需要を満たすため様々な分野の人々を原子力部門に勧誘・採用し、知見を継承するのに適切なレベルで維持する、(2)必要な部分で最良の原子力訓練が可能になるよう訓練インフラを整える、(3)英国全土で適切かつ一貫したアプローチを取るなど、訓練基準や資格認定を設ける--である。これらのテーマは、リスクの影響緩和を目的とした19の戦略的アクションを特定するのに活用されており、産業界としては意欲的なプログラムを進める際に必要な労働者を必要な速度で採用する上で、そうしたアクションが役立つと確信。現実に実行に移す項目として以下の点を挙げた。すなわち、英国は外国人労働力に過度に頼ることなく将来的に必要な労働力を確実に確保する、近い将来に現地で必要になる人的需要を満たせるような有能な人材資源を原子力分野で構築する、理数系(STEM)の実習生や大卒者に対する長期的な就業機会を増強する、訓練設備に自信を持って投資できるよう訓練要件の最低水準を設定する、原子力関係の労働力を柔軟性の高い流動型のものにする、英国において原子力関係技能の大幅な向上を確保する、生産性の高さや経済的な成功につながる技能に投資を行う、民生用と軍事用の間で組織横断的な動きを加速する、高い技能を持った労働者が職務で一層の満足感を得られるよう支援する、熟練労働者による次世代への知見の継承や指導を促進し、原子力部門における将来の能力基盤と技能を確保する--などである。