米ブラトルGr.が報告書:「既存原子力発電所の維持は効率的なCO2抑制策」

2016年12月20日

 米国の大手コンサルティング企業でエネルギー問題の分析を専門とするブラトル・グループは12月19日、既存の原子力発電所を早期閉鎖することは、短期的にも長期的にもCO2排出量の大幅な拡大に繋がるとの分析報告書を公表した。近年の電力市場環境では原子力発電所、特に単機で出力の小さいものは十分な収益を上げることが出来ず、早期閉鎖に至るリスクが高い。しかし、早期閉鎖することでCO2の排出量が直ちに増加するほか、同発電所が将来的にもたらすはずだったCO2削減効果も失われることから、原子力発電所の維持は結果的に最もコスト効果の高いCO2排出抑制策になると結論付けている。。

 この報告書は「原子力発電所の早期閉鎖がCO2排出量に及ぼす影響:重要エネルギー源の維持」と題されており、グループ内の主要なエネルギー経済専門家やアナリスト5名が共同執筆したもの。それによると、米国内で近年にいくつかの原子力発電所が早期閉鎖のリスクにさらされていることは、CO2の排出削減目標を達成する上で大きな脅威を生み出す。100万kW級の原子炉を1基閉鎖することで増大するCO2排出量は年間410万~670万トンにのぼり、MWhあたりの増加量は0.52~0.84トン。こうした原子力発電所における標準的な収益不足額はMWhあたり約10ドルだが、これを排出量ゼロ・クレジットのようにCO2を出さない原子力の恩恵に補償を与える形で埋め合わせると、1トン分のCO2排出を避けるための費用は12ドル~20ドルになるとした。このような額は、各州の発電部門における他のCO2抑制オプションの効果やCO2の社会的コスト(SCC)に関する様々な見積額と比較しても遜色ないと同グループは評価。既存の原子力発電所で暫定的な利用可能性を維持することは、短期的に見てCO2の排出を抑制する上でコスト効果が高く、長期的にも適正なコストで将来の温暖化防止政策を遵守することが可能であると実証されたとしている。

 同報告書はまた、分析結果に基づく発見事項を以下のようにまとめている。すなわち、
 ・エネルギー価格の低迷という近年の電力市場条件下では、いくつかの原子力発電所、特に単機で小出力のものが今後十分な収益を確実に上げることは難しく、不足額が約20ドル/MWhに達することもあり得る。
 ・原子力発電所の早期閉鎖により増加したCO2を、同発電所の立地州内に留めておくことはできない。それどころか増加分の多くが州外でCO2の増加を引き起こす可能性があり、隣接州を超えた地域にもかなりの量が流出し得る。このようなCO2の地理的分散は電力市場のカバー地域全体に影響をおよぼし、州レベルの温暖化防止政策や目標に課題をもたらすかもしれない。
 ・すでに長年にわたってCO2が大気中に存在するため、短期的な排出量削減対策は長期的なものより温暖化防止に一層効果がある。それゆえ、既存の原子力発電所を保持することはCO2の累積放出量を抑えることになり、いかなる温暖化防止アプローチにおいても改善効果をもたらすだろう。