米議会下院:新型原子炉技術の研究開発促進法案 可決
昨年11月の連邦議会議員選挙で発足した米国の新しい議会下院は1月23日、民生用の先進的な原子炉技術の研究開発およびその許認可と商業化促進を目的とする法案(H.R.590)を可決した。同法案を共同提案した超党派の下院議員は、国内原子力産業が安全確実な原子力の平和利用を保証するとともに最強の国家セキュリティ・ツールであるとした上で、今後も国際的な民生用原子力市場をリードし続ける必要があると認識。このため、固有の安全性を有する原子炉や、放射性廃棄物の排出量が少ないもの、核燃料の有効利用が可能であったり、熱効率や核拡散抵抗性が高いといった特長を持つ先進的な原子炉設計の研究開発を促進し、商業化に導けるような、新たな許認可の規制枠組策定を目指している。同法案はすでに翌24日に上院に送付され、2回の読み会を経て通商・科学・交通委員会に付託された。
同法案はまず、背景説明部分で、米国の原子力発電所が総発電量の約20%、低炭素電源による発電量の約60%を賄っているほか、定常的に稼働率90%で稼働するなど信頼性の高い適正価格の電力を供給している事実に言及。地元コミュニティには高給の雇用を提供し、国には数十億ドル規模の経済活動をもたらしているとした。こうしたことから、国内の商用軽水炉の維持と新型設計の利用拡大は信頼できるベースロード電力の継続的な供給を支えるとともに、原子力発電における米国のリーダーシップ維持につながると強調。リスク情報を活用した効率的でコスト効果の高い、実績主義の規制枠組を設定することが新型原子炉設計の開発には有効だと指摘している。
この目的を果たす基盤として、同法案はエネルギー省(DOE)と原子力規制委員会(NRC)が以下の課題について了解覚書を締結すべきだと明記。すなわち、民間原子力産業が安全かつ革新的な新型炉の研究開発と実証、および商業化申請をタイムリーに行えるよう、(1)DOEとNRCがそれぞれの役割に応じた十分な技術的知見を保有する、(2)数学的モデル等に基づいて新型炉の性能や挙動を計算するために、コンピューターとソフトウェア・コードを活用する、(3)DOEは研究開発用の既存設備を維持するとともに新たな設備を建設。NRCも必要に応じてこれらの施設を活用する--である。
その上で、NRCは法案成立後1年以内に新型設計のために、効率的で技術毎に公平かつリスク情報を活用した新しい規制枠組の策定プランを議会に提出することになる。同プランでは具体的に、以下のような点を評価する予定である。
・新型炉の許認可ならではの特徴、および関連する法制上、規制上、政策上の課題点。
・新型炉の許認可を既存の連邦規則で行うオプションと、新たな規制枠組で行うオプション、およびこれらを組み合わせたオプション。
・申請からNRCの最終決定までの期間短縮や申請書の修正・補足にともなう遅延を縮小するなど、新型炉の許認可を迅速化・簡素化するオプション。
・期間短縮と柔軟性拡大のため、合意に基づいた基準やコードを新型炉の規制枠組に盛り込むオプション。
・申請審査に段階目標を設けるなど、新型炉の許認可枠組を一層予測可能なものにするオプション。
・申請者が段階的な審査プロセスを利用できるオプション。
米国ではオバマ政権が2013年、低炭素な次世代エネルギー技術開発で米国がリーダーシップを握ることを目的に、2つの有望な小型モジュール炉(SMR)のエンジニアリングと許認可および商業化を支援する民間との共同出資プログラムを開始。対象設計のうち、ニュースケール社が今月12日に固有の安全性を有する商業用SMRについて設計認証(DC)審査をNRCに申請したほか、もう一方のBWXT社製SMR「mPower」についても、初号機を建設予定のテネシー州クリンチリバー・サイトでNRCが事前サイト許可(ESP)の審査を開始した。さらに、24日にはカナダのテレストリアル社が独自開発した小型溶融塩炉について、2019年後半にNRCのDC審査を申請すると表明しており、従来とは異なる原子炉設計の許認可で新たな規制枠組の策定が急務となっている。