英国:「Brexit」により欧州原子力共同体からも離脱の可能性
英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めたことにより、欧州原子力共同体(ユーラトム)からも離脱する可能性のあることが明らかになった。英国のT.メイ首相は当初、EUの基本条約(リスボン条約)第50条に沿って、欧州理事会に離脱を通告することで3月末までにEUからの離脱に向けた手続を正式に開始する方針だった。しかし、英国最高裁判所は1月24日、「離脱手続の開始には議会の承認が必要」と裁定。新たなステップが必要になったため、政府のEU離脱担当省が急遽、「EU(からの離脱通告)法案」を作成し、1月26日に下院に提出した。同時に公表した説明文書の中で「ユーラトムからの離脱も含まれる」と明記したことから、原子力産業界ではヒンクリーポイントC原子力発電所建設計画など、国内で数十年ぶりとなる新設計画に遅れの影響が出ることへの懸念が広がっている。同法案は2月初旬に下院が審議したあと、上院に回される予定である。
説明文書によると、同法案は離脱通告を行うための権限を首相に与えるなど、2つの条項で構成されており、2008年のEU修正法により「許可や義務事項の関連では『EU』という単語に『ユーラトム』が含まれる」という。英国を本拠地とする世界原子力協会(WNA)はこれに対する関連団体の見解を取材しており、T.グレイトレックス英国原子力産業協会(NIA)理事長のコメントを次のように紹介した。「産業界としては、ユーラトムに留まりたいとの希望を政府に明確に示した。原子力産業というものはグローバルな世界であり、原子力資機材やサービス、人の流れを円滑にすることで、新設計画や廃止措置、研究開発その他のプログラムといった作業を間断無く続けることができる。政府がもし、ユーラトムからの離脱を決めた場合、これまでユーラトムの枠組の中で原子力協定を締結していたEU加盟国、および日米やカナダなどの第三国と新たな協定を締結する時間を政府が与える必要があるので、それまでは英国はユーラトムに留まるべきだ。」
WNAはまた法的な解釈について、ユーラトムとEUが同じ制度を共有していても、法的特性が異なるため実際に統合されているわけではないと指摘。法的コンサルティング企業「プロスペクト・ロー」の原子力関係弁護士J.リーチ氏の分析として、「英国が2年以内にユーラトムから離脱する必要性はないし、ユーラトムにも個別の離脱手続があるので、EUからの離脱手続開始と同時にこれを始動させねばならないということはない」との認識を示した。また、英国のその他メディアによると、政府は当初、ユーラトムとの連携を絶つつもりはないとしていたにも拘わらず、EUの弁護士が「EUからの離脱は自動的にユーラトムからの離脱を始動させる」と警告した模様。ユーラトムから離脱した場合、英原子力規制局(ONR)は国内の民生用原子力施設における査察や核物質の販売承認などで、スタッフを追加充当する必要に迫られることになると伝えている。