米原子力協会の新理事長、電力インフラとしての原子力の重要性 強調

2017年2月14日

©NEI

 1月に米原子力エネルギー協会(NEI)の理事長に就任したM.コースニック氏は2月9日、ウォール街の金融アナリスト達に対して初めて、原子力発電の将来展望と米国原子力産業界が直面する主要課題についてブリーフィングを行った(=写真)。原子力が現在および将来の電力システムで担っている、インフラとしての極めて重要な役割、原子力を取り巻く幅広いエネルギー政策環境の変化などについて解説。原子力技術で米国が世界のリーダー的役割を維持する重要性についても、具体例を挙げて説明しており、原子力こそすべての電源の中で最も完全かつ価値ある提案であり、環境政策上の目標を満たしつつ信頼性の高い、かつ適正価格での電力供給が可能な電源であると訴えた。

重要インフラとしての原子力
 発足して間もないトランプ政権について予測することは難しいとしつつも、同理事長は大統領の優先事項にインフラ改善と雇用創出が含まれていることは明らかだと指摘し、原子力はそうした事項の推進に大いに役立つとの認識を示した。米国では2000年代初頭、電力インフラ部門で年間約400億ドルの資本投資が行われたが、現在では約1,000億ドルに拡大。ただし、その大半が送配電や天然ガス、再生可能エネルギー向けだった。米国の電力インフラの中でも、緊急に注力する必要があるのは電力グリッドの中心部分であるベースロード電源であり、供給電力の半分以上を賄う石炭火力と原子力が同グリッドと電力価格の安定化で主要な役割を果たしていると理事長は明言。既存の原子力発電所の半数が運転開始後60年を迎える2040年までに、手遅れとならぬよう新たな原子力技術への投資を行うべきだと述べた。しかし同理事長によると、米国はそこで2つの課題に直面している。1つは既存の原子力発電所を含め、可能な限り多くのベースロード・インフラを維持すること。もう一つは2020年代以降に米国で必要になる、新たな原子力技術の開発・建設を可能にするような政策的条件が創出されることだと述べ、国内の電力インフラには、連邦政府と州政府の為政者が取り組まねばならない投資ギャップが存在するとの考えを示した。 

 また、電力需要が低迷し天然ガス価格が低下している時期であっても、他のインフラ投資と同様、原子力で初期投資と長期的な建設計画のギャップを未然に防ぐことは重要だと理事長は強調。原子力発電所の新設ほど多くの雇用を創出し、経済的恩恵をもたらすようなエネルギー・インフラ計画は他にないとした。米国内では現在、ジョージア州のボーグル発電所とサウスカロライナ州のサマー発電所で合計4基の増設工事が道半ばまで進展しており、数万人規模の間接雇用を除外しても約3,500人を雇用中。これらのプロジェクトは、おそらく両州で過去最大のインフラ建設計画となると述べた。同理事長の認識では、両プロジェクトで経験したAP1000の詳細設計とエンジニアリングは、後続の建設プロジェクトでコスト削減や工期短縮に役立つだけでなく、規制プロセスや建設・起動活動においても、その教訓が適用できる。さらに、設計の標準化や新たな資金調達アプローチにより、原子炉新設におけるコスト効果はさらに上昇するが、70億ドル規模の資本投資を比較的小さな企業が行う場合は、リスク管理のための資金調達支援が必要だと指摘。こうした場合は、2005年のエネルギー政策法が承認した連邦政府の融資保証制度が重要テクニックになるとした。

政策的転換期を迎えた原子力
 コースニック理事長によると、原子力が直面する課題への取り組みという点で政策的な環境は転換期を迎えており、為政者が比較的短期間に、既存炉を失うリスクを正しく理解するに至ったと述べた。2014年頃に既存炉2基が早期閉鎖に追い込まれた際、NEIはエネルギー省(DOE)や連邦エネルギー規制委員会(FERC)などに対し、電力需要の低迷や低価格のLNG、再生可能エネルギーへの優遇政策により、多くの原子炉が同様の状況にあると説明したが、それ以降、7基が早期閉鎖される、あるいはそのリスクにさらされる事態となった。しかし、同理事長には今や、そうした形勢が変わりつつあるという確信がある。問題を認識した連邦政府や州政府、独立の系統運用機関が競争市場の改革に乗り出しており、第一にFERCが、実際の発電量を売買するエネルギー市場、および将来の供給力を取り引きする容量市場で改革支援を開始した。エネルギー市場で正確な価格設定を行うことは特に重要で、理由として理事長は、ベースロード電源たる原子力発電所がエネルギー市場から収益の大部分を得ている点を挙げた。第二に、州政府が課したCO2関連の要件と、市場の経済シグナルに合わせた価格の安定性とを市場で調和させる必要性が生じていることを、PJMなど複数の地域送電機関(RTO)が認識し始めている。理事長は例として、ニューイングランド地方のパワー・プールや関係者が電力卸売市場で環境政策目標を達成する道を模索しているという事実に触れた。
 連邦政府と市場の政策決定者がこのような複雑な課題の解決に取り組み始めたものの、原子力発電所の維持活動で主導権を握っているのは州政府である。そのため、ニューヨーク州とイリノイ州が昨年、CO2を排出しないという原子力の利点に対して、「ゼロ炭素クレジット」の形で補助金を支給する制度を創設したことは、先例として後続を導く偉業だと理事長は称賛した。両州では、早期閉鎖が予定されていた複数の原子力発電所で運転継続が可能になるなど、競争市場においてさえ効果的な解決策があり得るという実例になった。原子力産業界は現在、コネチカットやオハイオなど同様の政策が成立する可能性のある州で、集中的に支援努力を実施中。連邦政府や州政府が原子力発電所の維持に向けた措置を取りつつあることから、産業界としても、原子力を電力インフラ内に留められるような政策的解決を今後も模索していきたいと述べた。