科学技術振興機構が中国の原子力開発動向でシンポジウム
科学技術振興機構(JST)の中国総合研究交流センターは2月22日、都内のJST本部で中国の原子力開発の現状と動向に関するシンポジウムを開催した。中国との交流を深めるために11年前に設立された同センターでは、重要な研究テーマについては毎年1回、大規模なシンポジウムを開催しており、今年度のテーマに原子力を選択。すでに35基の商業炉が稼働するなど、2030年には原子力設備容量で世界第2位になることが予想される中国から2人の専門家を招き、日本では入手しにくい原子力関係の貴重な情報を約200名の参加者と共有した。
まず、清華大学原子力・新エネルギー技術研究院の孫俊・副研究員(=右写真)が中国における原子力発電開発の現状と展望について次のように説明した。
世界初のAP1000が年内に送電開始へ
中国では1980年代に原子力の基本政策が定まったが、2016年末までに35基、3,363.2万kWの商業炉が稼働するに至った。総発電設備容量に占める割合は約2%で、2016年の総発電量に占める原子力発電量2,105億kWhの割合は3.56%である。建設中原子炉も21基、2,150万kWと世界最大規模に拡大。福島第一発電所事故後に計画が停止されていた内陸部の3サイト(桃花江、咸寧、彭澤)については、AP1000を2基ずつ建設する計画の再開が概ね確定した。高速炉関係では、2011年に実験炉(CFER)が送電開始したのに続き、福建省・霞浦で中国の独自開発による60万kWの高速実証炉(CFR-600)プロジェクトが進展中。早ければ2017年中に着工する可能性がある。また、浙江省・三門と山東省・海陽で2009年に着工したAP1000がそれぞれ完成に近づいており、三門1号機は今年の上半期、海陽1号機も年内に送電開始できる見通しである。さらに、中国が輸出用の独自ブランドと位置付ける第三世代のPWR設計「華龍一号」についても、福建省・福清と広西省・防城港で2基ずつ実証炉の建設が始まるなど、様々な大型機器・設備を国内生産できるレベルに技術開発が進展した。このほか、高温ガス炉は2012年から実証炉が山東省・石島湾で建設中であるほか、商業炉の設計を政府に提出済み。国内の2大事業者である中国核工業集団公司(CNNC)と中国広核集団有限公司(CGN)の両方が小型モジュール炉(SMR)の開発も進めている。
中国では今後も、(1)エネルギー安定供給、(2)環境保全、(3)温暖化対策--の観点から原子力開発を継続する。いずれの点でも原子力が果たす役割は大きく、第13次5か年計画期の2020年までに5,800万kWの原子力発電所を稼働中、3,000万kW分を建設中とし、年間6~8基を建設していくことになっている。安全性と効率性の高い第三世代のPWRを中心に、沿岸部および検証済みの内陸部をサイトとする計画。AP1000技術を国産化・スケールアップした「CAP1400」の建設を開始し、高温ガス炉、商業用高速炉、小型炉などについても開発成果をあげる。また、李克強首相は2014年、成熟した技術の海外輸出戦略を打ち出しており、主に「華龍一号」、「CAP1400」、高温ガス炉を輸出する方針。このように原子力大国に近づきつつある中国は今や、原子力強国となることを目指している。
次に、同じく原子力・新エネルギー技術研究院の劉学剛・副室主任(=左写真)が中国の核燃料サイクルの現状と展望を以下のように紹介した。
バックエンド技術のレベル・アップが緊急課題
引き続き増大する国内人口と旺盛な電力消費を背景に原子力発電開発が急速に進む一方、発電所で使用するウラン燃料の確保という問題がある。仮に6,000万kWの原子力設備を40年稼働した場合38.4万トンの天然ウランが必要だが、国内の確認済みウラン資源は約17万トン程度。このため、中国は日本やフランスなどと同様、クローズドサイクルを確立し、PWRなどの熱中性子炉から出た使用済燃料でMOX燃料を製造し、高速炉で使用というロードマップで原子力開発を発展させる方針だ。ウランの濃縮分野ではすでに海外技術を導入した濃縮工場が4つ(陝西省、甘粛省、および四川省)あり、年間の合計供給量は0.57~0.7トンSWUほど。燃料製造企業も北部(内モンゴル自治区)と南部(四川省)に1社ずつあり、これまでに導入した多種多様な炉型のニーズに応えている。
使用済燃料の発生量は、2020年までに5,800万kWの設備を開発した場合、累計で7,000トンに達するとのデータがあり、大亜湾では2004年ですでに貯蔵プールが満杯。秦山Ⅱ期や嶺澳Ⅰ期、田湾Ⅰ期でも2016年にプールが飽和状態に達した。甘粛省にある中間貯蔵プール(PWRの使用済燃料550トン分)が2012年に満杯となったため、追加で900トン分のプールを拡張。さらに3,000~6,000トン分のプールを建設する計画もある。重水炉と高温ガス炉から出る使用済燃料については乾式貯蔵方式となっている。再処理工場については、2004年にパイロット試験施設(処理量50トン/年)が甘粛省で完成しており、大亜湾からの使用済燃料を施設内のプールで貯蔵中。2010年12月に実燃料を使ってホット試験を実施したものの、その後6年間は改造中で使用開始に至っていない。2000年以降は処理量800トン/年の商用再処理工場を建設するため、仏アレバ社と商談を継続している。2013年に両国首脳立ち会いの下で意向書を締結したのに続き、翌年には長期協力覚書を結んだ。中国独自の再処理工場も、CNNCが2012年に開発計画を発表。2016年に担当子会社を設立しており、2020年までに200トン/年の商用工場の設計を終えて着工にこぎ着けたい考えだ。放射性廃棄物の管理関係では、5つの低中レベル廃棄物処分場を建設することになっており、すでに甘粛省・西北、広東省・北龍、四川省・飛鳳山では完成した。高レベル放射性廃棄物については2016年から、甘粛省・北山エリアを中心に地下実験室の建設サイトを選定中。複数の岩盤サンプリングや水質調査を行っているところである。
個人的に今後の課題と考えている点は、まず核燃料サイクルのフロントエンドでは技術を確立したものの、今後の発展計画のニーズを満たしていくには規模が小さいということ。バックエンドは依然として技術レベルが低く、再処理工場の建設は計画通りに進んでいない。回収したウランとプルトニウムをどのようにMOX燃料に製造するかや、高速炉のニーズに合うかなどの検証も必要だ。また、管理部門の問題点としては、担当者のほとんどが原子力発電所の経験しかないこと、関連法律や技術基準の整備が不十分であること、サイクル関係の基礎研究と応用が乖離していること、などを感じている。福島第一発電所事故以降の方針として、発電部門でもサイクル部門でも「安全性と高効率」を掲げているが、核燃料サイクルで高いレベルの効率性を実現するには、設備の設計や製造などと同時に基礎研究を進める必要がある。その意味で、中国の指導者が原子力発電所の建設に気を取られ、基礎研究に目を向けていないことは問題だ。さらに、利益の分配という点でも課題が浮上しており、電力会社の収益が莫大である一方、ウラン関係企業の収益は低い。サプライ・チェーンを健全に発展させるためにも利益分配の最適化と合理化が必要だろう。