ハンガリーの増設計画:EUの国家補助規制をクリア
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は3月6日、ハンガリーのパクシュ原子力発電所5、6号機増設プロジェクトについて、国家資金による財政支援が含まれていると結論付けたものの、エネルギー市場における競争原理の歪みを制限する対策をハンガリー政府が誓約したことから、国家補助規則に基づいて同プロジェクトへの投資を承認すると発表した。ハンガリーは2014年に総工費120億ユーロ(約1兆4,466億円)と言われる同プロジェクトを競争入札せずにロシアに発注しており、ECは2015年11月、これが公的調達に関するEU指令に準拠しているかの調査を開始。同時にEU域内の競争法であるEU機能条約(TFEU)の国家補助規則に適合するかという点についても詳細な調査を始めていた。公的調達についてECは2016年11月に調査を完了し、違反行為がなかったことを認めた。国家補助に関しても今回、承認裁定を下したことから、ハンガリーは国内規制当局の許可を得た上で今年中にも同プロジェクトの準備作業を開始し、2018年の着工を目指すことになる。
パクシュ発電所はハンガリー唯一の原子力発電設備であり、総電力需要の約50%を賄う重要電源。1980年代に運転開始した既存の4基(各50万kWのロシア型PWR)で経年化が進んでいるため、将来的なリプレースを念頭に5、6号機(120万kW×2基)の増設を計画している。政府は2014年1月、ロシアからの融資により両炉をⅡ期工事として建設すると発表しており、翌月には総工費の約8割にあたる最大100億ユーロ(約1兆2,000億円)を完成後21年間の低金利ローンで返済することでロシアと合意。同年12月にロシアのエンジニアリング企業とエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約を含む3つの関連契約を締結した。
ECの発表によると、国家補助規則に関する調査の中でハンガリー政府は、民間投資家が一般的に得るよりも低い投資利益率を受け入れると明言。これにより、同建設プロジェクトへの投資はTFEU第107条1項の規定の範囲内で国家補助を含むことになり、承認を受けるためにはその目的に相応する制限が同補助で必要になった。ハンガリーは国内のエネルギー市場で過度の歪みが生じることがないよう、複数の対策を提示しており、それらを通じて競争原理の損なわれる可能性は最小限に限定されるとした。すなわち、
(1)パクシュ5、6号機の事業者に対する過度の補償を避ける:5、6号機で得られる利益はハンガリー政府の投資に対する返済、あるいは5、6号機の通常運転コストのカバーに使用することとし、追加の発電設備の建設や取得への再投資に利用することはできない。
(2)エネルギー市場の集中を避ける:5、6号機の事業者は、Ⅰ期工事の所有者(国営MVMグループ)やその後継企業、あるいはその他の国営エネルギー企業から機能的および法的に切り離す。
(3)エネルギー市場の流動性を確保する:5、6号機による総発電量の少なくとも30%をオープンな電力取引に回し、残りは目的に応じて透明性のある、差別的な条件のないオークションで販売する--である。