英ムーアサイド原子力発電所建設計画の共同出資企業が撤退表明
東芝とともに英国のニュージェネレーション(NuGen)社に出資していたフランスの大手エネルギー企業ENGIE社は4月4日、英国西カンブリア地方におけるムーアサイド原子力発電所建設計画から撤退する方針を表明した。同計画では東芝傘下のウェスチングハウス(WH)社が設計した第3世代PWR設計「AP1000」を3基建設することになっているが、WH社が3月29日に米国連邦倒産法の再建型処理手続を申請したのを受け、保有する40%のNuGen社株をすべて東芝に売却する権利の行使を決めたもの。これにより、東芝は差し当たりNuGen社の全株式を保有することになるが、現地の報道によると英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のG.クラーク大臣が現在、韓国を訪問中であり、韓国電力公社(KEPCO)がNuGen社株を引き受ける可能性について韓国政府関係者および原子力産業界の幹部らと協議を行っている模様。AP1000設計は3月30日付けで英規制当局の事前設計認証審査をパスしており、国内で20数年ぶりの原子力発電所新設計画としては、サマセット州のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(アレバ社製EPR×2基)計画に次いで手続が進展している。英国政府としては既存の原子力発電所が閉鎖時期を迎える2030年頃までに、英国の電源ミックス中で重要な役割を担う原子力発電所の新設計画を何としても成功させたい考えだ。
ENGIE社はフランス・ガス公社(GDF)を母体とする電力・ガス供給業者で、旧名はGDFスエズ社。近年の電力価格下落にともない2016年2月から150億ユーロ分の資産処分プログラムを進めており、すでに米国とインド、インドネシアでは石炭火力やガス火力発電所を売却処分した。今回の発表では、ムーアサイド計画に対して今後も同社の専門的知見やノウハウを提供することや、新しいパートナーとのNuGen社立て直しに協力することにやぶさかではないとの認識を示した。一方、NuGen社に60%出資していた東芝は同日の発表の中で、ENGIE社との株主間契約に基づき、東芝側に帰責事由が発生した場合にENGIE社は保有株式すべての買い取りを請求できると規定されていた点を説明。買い取り価格は2017年3月までのENGIE社の投資額をベースに約153億円としたが、この評価損は単独決算損益のみに反映されるため東芝の連結損益計算書に影響することはないと明言した。ムーアサイド計画の今後については、開発許可の取得や最終的な投資判断に向けて準備中だと強調。引き続きNuGen社への出資者の募集と、出資希望者への東芝持分の売却を検討するとしている。
英国では既存の原子炉15基中、14基までが2023年までに閉鎖される予定だったが、新設計画の1基目となるHPC発電所初号機の完成が2025年以降になる見通しとなったため、事業者のEDFエナジー社は昨年、14基の改良型ガス冷却炉すべてで平均7年間の運転期間延長を計画。延長後の合計運転期間は、38~47年になる計算である。英国政府は、CO2排出量を抑制する観点からも原子力発電所が果たす役割を重要視しており、BEISは今年1月にアップデートした「エネルギー供給とCO2の排出量見通し」の中で、英国の総発電量に占める原子力シェアは昨年実績の20%から2035年時点で38%に増加すると予測している。
ムーアサイド計画に韓国が参加する可能性について、英国の経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は、米国のAP1000建設計画で遅延等の問題が生じた理由が明確になるまで、韓国側は承諾しないだろうとの見方を示した。仮に同意したとしても、国産原子炉の輸出に力を入れる韓国が採用設計を韓国製「APR1400」に変更するよう希望する可能性があると指摘。その場合は、同設計を規制当局の事前設計認証審査にかける必要があり、プロジェクトはさらに4~5年の時間を要することになる。