英議会の科学技術委、SMR開発含め政府に明確な原子力政策の策定 勧告
英国議会上院の科学技術委員会は5月2日に新たな報告書「原子力研究と技術:優柔不断の輪を断ち切る」を公表し、本格的な原子力利用国としての英国の将来を見据えた場合、欧州連合(EU)からの離脱問題や幅広い原子力産業戦略との関係上、総選挙後に発足する新政権には小型モジュール炉(SMR)の開発戦略も含めて確固たる原子力政策を打ち出す必要があると表明した。T.メイ首相は次回の総選挙を3年前倒しして6月8日に実施する意向を表明したが、同委員会は歴代政権の優柔不断によって、英国の民生用原子力部門が有する潜在的な可能性は台無しにされてきたと指摘。2年間のEU離脱交渉期限が満了するまでに欧州原子力共同体(ユーラトム)に代わるものを準備できなければ、英国の原子力部門はリスクにさらされるとの危惧を表明したほか、原子力発電所の新設に必要な技術的スキルや既存炉の運転継続に必要な核燃料市場との接点、および核融合研究における主導的立場を失うことになると警告した。また、英国では原子力関係の研究開発および技術革新に対する公的予算の割当レベルが米国やフランス、日本よりもかなり低いことが判明したと明言。英国が原子力研究開発のあらゆる分野で主導的でありたいのなら、新たな技術開発に多額の投資を行う必要があると強調している。
政府が取るべき緊急アクション
報告書によると、英国は長年にわたって原子力の民生利用を続けており、放射性廃棄物の管理や本格的な廃止措置でプロジェクトが進行中。経年化した民生用原子力発電所をリプレースする判断が下された一方、英国政府は原子力利用国としての将来に向けた重要局面を迎えている。SMR開発も含めて、英国は今後到来する好機を捕らえる上で戦略的に重要な立場にあるが、こうした機会を最大限に活かすには政府が原子力産業を支えるアクションを取らねばならない。民生用原子力部門において、これまでの政権による政策決定の遅れは、国内原子力産業がそうした政策に効果的かつ短期・長期的に寄与していく能力に深刻なダメージを及ぼしたと科学技術委員会は指摘。政府が決断しなければならない点としては、英国が原子力発電所の設計者や製造業者、事業者になるべきなのか、あるいは外国製機器の使用者となるのを抑えるべきかということになるが、いずれにしても政府に対しては明確かつ確固たる見解を持つことを強く要請。時宜にかなった判断が出来なければ深刻な影響が出てくると述べた。
政府が一旦、包括的な決定を下せば、明確な目標設定や時間枠の特定といった他の戦略的な判断は自ずと付いてくるというのが科学技術委員会の見解。英国が仮に、原子力発電所の設計者や製造業者になる道を選んだ場合、以下のステップが最小限、必要になるとした。すなわち、(1)英国内外で原子力発電所の新設を支援する新たな技術開発において、英国を魅力的なパートナーにするのに十分な規模と領域を持った国内研究プログラムの策定、(2)「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)」のような国際プログラムへの参加と貢献--である。また、2050年まで安全・確実な原子力エネルギー供給を保証するために設置した原子力技術革新調査・諮問委員会(NIRAB)が大きな役割を果たしたことから、その継承組織を緊急に設置して原子力研究開発への投資から最高の価値を引き出していく必要があると指摘。以前、公表された5年間の民生用原子力研究プログラムに2億5,000万ポンド(約365億円)という割当は、適切なクオリティと妥当な適用可能性があると判断された研究プログラムに宛てるべきだとしている。
SMRの開発戦略
科学技術委員会の見方では、将来の原子力産業にとってSMRは世界規模で重要なものになる見通しだが、英国は現在、SMRの軍事利用分野において技術的優位にある。世界市場で明確なリーダーが不在ななか、英国にはSMRの設計・製造業者として市場に再び加わるだけの経験と専門的知見があるものの、国内SMR市場の規模が限られていることや、コスト削減の可能性があるという点から、同委員会としては外国パートナーとの合弁事業で進めることが望ましいと認識。こうしたことを念頭に、政府は英国にとって最適なSMR設計の特定や開発ロードマップ作成のために2016年に実施したSMRコンペの結果を早めに公表すべきだとした。SMR戦略の決定が遅れれば英国は二度と無い好機を再び棒に振ることになると警告しており、こうした遅れは民生用原子力部門における政府怠慢の最たる例だとも指摘。公的なコンペの日程表を管理しなかったことで原子力部門には悪影響が及んでいるとしたほか、政府が直ちに動かなければ、産業界においても必要な高い関心を維持できなくなると訴えている。