南アのエネ相、原子力新設計画を違法とする判決に控訴せず
南アフリカ共和国エネルギー省のM.クバイ大臣は5月13日、政府の原子力発電所新設計画に実施根拠を与える2つのエネ相決定を西ケープ州の高等裁判所が4月に違法かつ無効と判断したことについて、エネ省として控訴しない方針を表明した。同様に違法・無効と裁定された米国、ロシア、韓国との原子力協力政府間協定(IGA)については、フランス、中国を含めた5か国と新たなIGAを結び直して議会に提出する考えを明らかにしている。2013年に当時のエネ相は、2010年~2030年までの「統合資源計画(IRP)」に基づき、南アでは2030年までに960万kW分の原子力設備が新たに必要と決定したほか、2016年にはこの内容について、新規設備の調達担当者をエネ省から南アフリカ電力公社(ESKOM)に変更する決定を下していた。これら2つの決定に基づきESKOM社は昨年12月、入札提案依頼書(RFP)の前段階にあたる情報提供依頼書(RFI)を世界の原子力産業界に対して発出したが、エネ相は根拠となる2決定が無効とされたのにともない、いかなるRFI、RFPも無効になるとしている。
今回の声明文発表に先だち、クバイ大臣はエネ省官僚および、法的問題の担当者と判決内容を精査。南ア政府とエネ省はこれまで通り、現行のエネルギー・ミックス政策に全力で取り組む所存であり、エネルギーの供給および利用可能性を保証していくために、あらゆるエネルギー源の活用を継続的に目指す方針だと述べた。IRPでは電力需要の倍増に対処するため、原子力と再生可能エネルギー両方の比重を大幅に高めるとしているが、エネ省としては電力部門を両電源で分裂させないよう関係者に要請。また、IGA関係では相手国に影響が及ぶことへの懸念があるため、同大臣は裁判所判決に控訴しないことを決め、省内には2つの指示を出したと述べた。
まず、電力規制法(ERA)第34項はエネ相に対し、国家エネルギー規制局(NERSA)と協議した上で新たに必要な設備容量を判断し、使用する電源の概略を示す権限を与えているが、今後は第34項におけるすべての決定手順を見直すとともに、すでに下された全決定事項について判決文に即したレビューを行うとした。これは裁判所が判決理由として、公正な国民参加手順を経ずにエネ相が決定事項を官報に掲載したことや、NERSAがこれら2つの決定事項を不公正な手順で承認したと指摘したため。また、議会への提出時期が大幅に遅延したと指摘された3か国とのIGAに関しても、エネルギー省は裁判所の判決を受け入れるとともに将来的にも間違いが生じないよう、今後締結するIGAについては議会や議会委員会に提出する前段階の手続や書式を標準化していく。現行のIGAはもはや議会に提出せず、5か国すべてと新たな協定を調印して、適切な時期に議会審議にかけられるよう取り組むことが重要との認識を示している。
現地の報道によると、南ア原子力産業協会(NIASA)は今回のエネ相方針を支持する考えを表明した。すなわち、同協会の創設理念は透明性の確保であり、一般的な南アフリカ国民の生活を劇的に改善する可能性のある重要プロジェクトの開始時は特に、適正な手続が最優先されると述べた模様である。南ア原子力公社(NECSA)のK.ケム会長も裁判所判決が出た際、「これで原子力新設計画が終焉を迎えたわけではなく、計画の新しい方向性が示されたことを意味する」とコメント。原子力そのものへの裁定というより、行政手続に対して下された裁定との見方を示していた。また、原子力発電のコストや利点、安全性、および南アの長期的なエネルギー要件について一般国民はしばしば誤った情報を与えられるが、今回の判決の肯定的側面として、理性的な人々が現実に即して物事を考え判断できるような、事実と真実を本格的に議論する機会が与えられたとしている。