米原子力学会、既存原子力発電所の運転継続は重要との意見書

2017年5月22日

 米原子力学会(ANS)は5月16日、「米国の商業用原子力発電所:重要な国家資産」と題する意見書を公表し、連邦政府と州政府の両レベルで原子力発電を支援する政策を取るべきだと勧告した。米国の既存の原子力発電所は、国内送電網の信頼性や米国のエネルギー自給、地球温暖化防止、世界的な核拡散防止などの面で重要な役割を担っているにも拘わらず、そうした恩恵への補償を行わない電力市場によって経済性が損なわれれば、これらの役割を果たすこともできなくなると指摘。ANSとしては、既存の原子力発電所の運転継続を支持し、将来的な経済性を改善するための活動を支援していくと明言している。

 ANSの認識によると、米国内の原子力発電所を継続的に運転することで国内外の安全保障と経済的繁栄が維持されるだけでなく、信頼性のあるクリーン・エネルギー供給、電源の多様化、安全性と核不拡散関係の国際基準に対する米国の影響力などが保証される。しかしながら、国内の多くの電力市場は原子力の持つ有益な特質を認識しておらず、適切な補償も行っていない。このような歪みが結果的に、複数の原子力発電所を早期閉鎖に追い込み、新規の原子力発電所建設を財政的に難しいものとし、米国の電力システムにおける将来的な信頼性をも損なう可能性があるとした。ANSはまた、原子力が米国の総発電量の約20%を賄うとともに、国内の全自家用車が年間に排出する約6億トンのCO2とほぼ同量の排出抑制に貢献している事実に言及。発電用燃料の多様化にも貢献しているほか、その高い信頼性と1日24時間フル稼働できるという性質により、近代的な産業社会を支える上で重要なクリーン・ベース・ロード電力を供給する理想の電源になっている点を強調した。

 米国内で原子力発電の追加設備が減少していくと、国内原子力産業の重要な能力、特に原子力技術を輸出する能力が低下し、それとともに安全性と核不拡散関連の基準に対する米国の影響力も失われていくとANSは説明。世界中で様々なプロジェクトに携わる米国の原子力エンジニアや専門家は、原子力導入プログラムを策定中の途上国で高い評価を受けているが、世界のどこで働こうと、彼らはそこで米国の安全文化と核不拡散に取り組む重要性を認識させ、世界を一層安全な方向に導いている。米国がこのようなレベルの関与やリーダーシップ能力を維持・拡大するには、国内に盤石な原子力発電所が存在する必要があるとANSは明言。国内原子力産業の健全性は国家的な安全保障にとって重要問題であり、原子力発電所は重要な国家資産であるとの認識を明らかにした。

 こうした背景から、ANSは以下の3点を連邦政府や州政府に対して勧告している。すなわち、
 (1)原子力発電とその他のクリーン・エネルギー発電技術に、公平な機会を与えるための政策措置を取る。:太陽光や風力発電は無炭素電源だが間欠的にしか発電できず、これらの発電量が多い時期はいくつかの地域で市場の卸売価格がゼロかそれ以下になり、原子力を含めた他の電源すべての利益が減少する。連邦政府や州政府は再生可能エネルギーに利益をもたらしている経済的インセンティブを原子力にも拡大適用すべきであり、年間を通じて供給信頼性や送電網の安定性を支えている発電事業者に対して本格的な補償を与えるべきである。
 (2)必要に応じて連邦政府と州政府の両レベルで原子力への支援措置が取られるよう、州法と電力市場規則を調整する。:スポット市場と容量市場を組み合わせた場合でも、原子力の持つ特質を十分に支援することはできず、電力市場では可能な限り、CO2排出量の抑制価値や全運転コストを反映したスポット価格を保証するための規則改正を行うべきである。容量市場については、原子力発電所関係の意思決定と一致した長期的な利益がもたらされることを目的に改革すべきであるし、地方や州の容量計画においては、連邦エネルギー規制委員会が管理する電力市場で、州政府等が長期的な2者間契約を締結できるような法律を成立させるべきである。
 (3)原子力発電に対する支援措置の中で、連邦政府の役割を拡大する。:中国やロシア、フランス、韓国といった主要な原子力産業国では政府所有の原子力発電産業と原子力サプライヤー産業が存在し、輸出市場で商業的な成功を納めている。原子力による発電産業が十分な補償を得たとしても、米国の原子力発電および原子力サプライヤー産業はこれらの国と競合出来ない可能性があり、米国の連邦政府はこれらの産業界が競争力を維持するために大きく関与すべきである。また、原子力発電が米国の経済や環境に及ぼす重要な恩恵についても、国民の理解を深めるような支援を行うべきである。