国際エネ機関が報告書:「温暖化防止に寄与する原子力の設備拡大に政策支援 必要」

2017年6月14日

 国際エネルギー機関(IEA)はこのほど、世界的な「エネルギー技術の開発見通しに関する年次報告書(ETP)」の2017年版を刊行し、クリーン・エネルギー技術の開発を促すには断固たる政策的アクションとマーケット・シグナルが欠かせないとの見解を表明した。世界のエネルギー・システムは歴史的な変革に向けた動きをさらに加速しているとした上で、今回初めて、クリーン・エネルギー技術の開発促進と拡大にともない、地球温暖化対策で生じるチャンスと課題に焦点を当てており、IEAがこれまでに検討した以上に意欲的なシナリオについても考察。原子力に関しては、設備を拡大すれば世界の気温上昇を2度Cに抑える一助になると明言しており、それには明確な政策的支援と産業界における経費削減努力が重要になると勧告している。

 ETP最新版はまず、世界では一層多くの人々が生活水準向上のために電気を活用しており、電気器具や消費財に対する需要が高まっていると指摘。電気自動車や自律走行車のような革新的輸送技術の開発もまた、電力需要を押し上げており、このような傾向や技術開発が今後40年間で世界のエネルギー部門の再編成に向け、どのように展開していくか解説している。本報告書では特に、エネルギー技術の開発を促すとともに世界中で進展中の電化から恩恵を得るには、決定的な政策アクションとマーケット・シグナルが必要になると明言。送電容量や貯蔵能力、デマンドサイド管理技術といった一層頑健かつ高性能なインフラへの投資が、低炭素で効率的かつ統合された柔軟性のある堅固なエネルギー・システムの構築には必要だと述べた。それでも、各国政府による近年のエネルギー政策は地球温暖化の防止目標を長期的に達成するには不十分であり、IEAが評価した26の技術のうち、目標を満たせるだけの開発が順調に進展しているものは3つに過ぎないと指摘。政策的に明確なシグナルが発せられた部分では大きな進展が見られるものの、多くのエネルギー技術が適切な政策的支援を受けていないとの認識を示した。

 ETP最新版では基本開発ケース・シナリオを「参照技術シナリオ(RTS)」と呼称しており、ここではパリ協定に基づく誓約も含め、既存の温暖化防止目標とエネルギー目標を考慮した。もう一つは世界の気温上昇を2度C未満に抑える道筋を示した「2DS」シナリオで、2060年までに世界の発電部門によるCO2排出量を差し引きゼロにすることを想定。どの道筋を選択しようと、エネルギー技術の研究段階から本格的な開発にいたるすべての段階において、技術革新への政策的サポートが重要になると結論づけており、それによって、エネルギー供給保証やエネルギー・システムの変革にともなう環境上、経済上の恩恵が得られるとした。また、エネルギー政策立案者にとって最も重要な課題は、エネルギー・システム毎に孤立した状態から離れ、全体を1つに統合できるよう変えていくことだと示唆している。

「原子力は2DSシナリオの達成に貢献」
 原子力に関しては、技術毎の進展状況を追跡調査した項目の中で2016年の開発傾向をとりまとめており、同年に追加された設備容量が1990年以降で最高値の1,000万kWだったとした。新規着工した設備容量は引き続き変動傾向にあり、前年実績の880万kWから320万kWに低下したものの、過去10年間の平均値は850万kWになると指摘。2DSシナリオの目標を達成するには、年間2,000万kWずつ、容量を追加していく必要があるとしている。
 世界の総発電電力量のうち、約11%が原子力によるものであり、低炭素電源の発電量に限るとシェアは3分の1まで上昇。しかし、パリ協定では使用するエネルギー技術を特定しておらず、2016年末までに163か国が自主的に決定した約束草案(INDC)のうち、原子力発電を明確に国家戦略に含めていたのは、中国やインドなどわずか10か国だったとした。また、既存炉の早期閉鎖も引き続き2DSシナリオの目標達成上、大きな脅威となっており、米国では低価格な天然ガスに支配された電力市場で多くの原子炉が閉鎖の危機にさらされているとETPは明言。2016年はまた、フランスで(鋼材組成関連の)安全性調査が実施されたため、同国の原子炉が多数オフラインだったことを説明した。
 ETP最新版はこのほか、各国の原子力発電開発計画や建設中の原子炉に採用されている第3世代設計について触れた後、推奨されるアクションとして以下の点を明記した。すなわち、原子力発電設備の開発を拡大することで、2DSシナリオの不足分を補う一助となり得るだけでなく、世界的な低炭素化に向けて多大な貢献が可能という原子力の潜在能力を十分発揮することができるとした。ただし、これには明確かつ一貫性のある政策的支援が既存炉や新規原子炉に対して必要であり、その他のクリーン・エネルギーとともに原子力開発も奨励する制度がこれに含まれる。さらに、不確定要素にともなう投資リスクの軽減努力も必要だと指摘しており、具体的には許認可や立地のプロセスにおいて明確な要件が定まっていること、建設の最終承認を受ける前に巨額の資本支出が不要とすること、などを挙げた。原子力産業に対しては特に、経済的な競争力を維持するために、建設コストや資金調達コストの削減で可能なアクションをすべて取らねばならないと勧告している。