IEAが世界のエネルギー投資報告書:化石燃料供給で落ち込む一方、電力部門の投資拡大

2017年7月13日

 国際エネルギー機関(IEA)は7月11日、エネルギー供給システムに対する世界中の投資額を詳細に分析した年次報告書「世界エネルギー投資(WEI)2017」を昨年に引き続き刊行した。電力部門で投資が拡大したにも拘わらず、化石燃料探査への投資が世界各地で継続して落ち込んでいるため、世界全体のエネルギー投資額も2年連続で低下。世界最大のエネルギー投資国であるという中国の立場は変わらないが、その投資先は次第に石炭火力発電所から低炭素電力の供給と電力網、エネルギーの効率化などにシフトしている。原子力分野では2016年に1,000万kW分の設備が送電開始するなど、過去15年間で最高の実績となったが、これらへの投資決定はすべて数年前に下されたもの。2016年に着工した原子力発電設備300万kWの大部分が中国の計画であり、過去10年間の平均値を60%下回ったことなどを明らかにした。

 今年で2回目となるWEIの発行により、IEAは各国政府やエネルギー産業界および金融機関が関連の意思決定を下す上で重要な情報基盤を提供する考え。世界全体のエネルギー供給システムに関する様々な判明事項、景気が上向いている部門や下降気味の指標についても、ベンチマーク的な分析を実施している。それによると、2016年に世界全体のエネルギー投資額は前年実績から12%減の1兆7,000億ドルとなったが、これはエネルギー効率化と電力網に対して、それぞれ9%と6%増加した投資が、石油とガスの探査活動への投資の落ち込みにより相殺されたのが原因。電力部門における総投資額が今回初めて、石油と石炭、ガス供給のための合計投資額を上回ったほか、供給投資額全体に対するクリーン・エネルギー投資の割合は過去最高の43%に到達した。国別では、世界全体額の21%を占める中国で新規の石炭火力に対する投資額が25%低下したが、米国でも石油とガスに対する投資が急落。大規模なエネルギー投資市場で最速の成長率を見せるインドでは、政府が電力部門の拡大と近代化を強力に後押ししているため、投資額が7%上昇している。

 電力への投資額は2016年に世界全体で約7,180億ドルとなっており、これは前年実績からほぼ横ばい。電力網に対する投資増加の大部分は、石炭火力新設への減額投資で打ち消された。再生可能エネルギー源に対する投資は最大シェアを占めているが、2016年は3%減の2,970億ドル。この額は5年前の数値と比較しても3%低下したものの、太陽光と風力で技術の向上とコストの軽減が図られたことにより、発電量は35%増加している。エネルギーの効率化に対する投資は、9%上昇して2,310億ドルとなった。全体の27%を中国が占めており、この分野における投資成長率で中国は数年以内に欧州を追い抜く可能性がある。

 IEAとしては今回初めて、世界中のエネルギー部門における研究開発経費を追跡調査。個別の実績から全体像を導き出すというボトムアップ型分析により、官民両方の機関を評価したところ、2015年に世界全体で650億ドル以上がエネルギー関係の研究開発に投じられたことが判明した。官民の資金割合は概ね均等だが、低炭素技術の研究開発となると公共部門の投資シェアが大きい。クリーン・エネルギーへの移行は技術革新の進展に左右される問題だが、世界全体の研究開発費は過去4年間で増加しておらず、クリーン・エネルギー技術については特にそうである。また、国内総生産に対する研究開発費の比率で、中国はすでに日本を抜いて世界のトップレベルにあることが明らかになった。

 また、2016年にCO2排出量は3年連続で停滞しているにも拘わらず、クリーン発電への投資が需要の成長に追いついていない。新しい太陽光や風力発電の設備で投資が増大しても、新規の原子力発電所や水力発電に対する最終投資決定が今後数年間に停滞すると予測されるため、ほとんどすべての増額分を相殺。結果として、単に電力需要の増加に合わせるために新たな低炭素電源への投資を加速しなくてはならない。電力部門では、収益リスクを回避するために規制された価格設定や契約によって投資金の94%が調達されていることを考えると、今後、一層多くの資金を調達していく上で政府政策や新たな事業モデルが極めて重要な役割を果たすことになるだろう。