世界原子力協会、原子力による本格的貢献の実現に向け一層の努力を提言
世界原子力協会(WNA)のA.リーシング事務局長(=写真)は9月14日、将来的なクリーン・エネルギー需要を満たす上で、原子力発電による本格的な貢献が可能となるよう各国政府や専門機関、および原子力産業界が一層努力すべきだと提言した。WNAが本拠地の英国ロンドンで今週開催している「WNAシンポジウム」の記者会見で述べたもので、世界では60年以上にわたって原子力発電所が低炭素な電力を供給しているが、地球温暖化防止や電力による豊かな市民生活などへ原子力の恩恵を活用していくには、新たに10億kWの原子力設備が必要だと主張。それには、エネルギー市場改革などを通じて原子炉の新設ペースを上げる必要があり、そのための行動を取るよう呼びかけている。
同事務局長によると、世界では地球温暖化防止のための環境目標達成を目指す一方で、全人口への信頼性のある適正価格での電力供給という方向には向かっておらず、10億人の生活が未だに電化されていない。約2年前のパリ協定で、各国政府は世界の平均気温上昇を2度C未満に抑えることを約束したが、そのために設定された活動では、上昇をかろうじて3度Cに抑えるのが限度。「我々には一層の努力が必要だ」と述べた。
リーシング事務局長は次に、原子力はコスト効果が高くクリーン電力をもたらす実証済みの発電技術だとした上で、2015年と2016年の2年間に世界で新たに20基の原子炉が送電開始した事実に言及。新規の原子力設備を年に約1,000万kWずつ追加できたことは、過去25年間でも非常に高い数値であり、発電量も過去4年間に毎年増加している点を強調した。WNAではこの日、「2035年までの世界の核燃料需給シナリオ(最新版)」を公表しており、同事務局長はこの報告書における基準シナリオでは、2035年までに原子力設備は4億8,200万kWに増加するほか、高ケース・シナリオでは各国政府や企業が計画通りに原子力事業を進めることで6億2,500万kWに到達すると予測したことを明らかにした。
この関連で事務局長は、WNAが2015年のシンポジウムで「ハーモニー・イニシアチブ」を開始したことに触れ、原子力産業界が2050年までに世界の総発電量のうち25%を原子力で賄うという目標を設定したと強調。これは新たに10億kWの原子力設備を建設することを意味しており、産業界が1980年代と同じペースで原子炉を新設できれば達成可能であると説明した。報告書で想定した高ケース・シナリオでも温暖化防止目標の達成には不十分で、事務局長によれば、もっと早いペースで原子力発電を拡大するためには、次の3分野で行動を起こすことが必要。それらは(1)エネルギー市場、(2)規制体制、(3)拡大を可能にするための安全性認識--を改革することだと指摘した。
現在、多くの国の電力市場で、必要なエネルギーを自由に選択できない状況になっているが、低炭素電源をすでに活用中かつ、追加設備への投資が行われている市場においては、原子力にも公平な条件が与えられなくてはならない。すなわち、他のすべての低炭素発電技術の中に原子力を含めること、無炭素電源のなかでは唯一、実際の需要に合わせた増減が可能という原子力の送電システムに対する貢献度が正しく認識されること、そして、その見返りが原子力に与えられることが必要だとしている。
リーシング事務局長の認識では、一般市民の幸福に対して純粋に効果のある安全性パラダイムが原子力には必要であり、原子力に備わっている環境上や安全上の利点がその他のエネルギー源との比較で高く評価されるべきだとした。また、国際的に一貫性のある、効率的で予測可能な許認可体制が整備されるよう、調和の取れた規制プロセスが必要で、そのような体制においては、安全・セキュリティを犠牲にすることなく原子力設備の大幅な拡大を可能とする、標準化されたソリューションが備わることになると述べた。
同事務局長は、このような改革抜きでは、低炭素経済に向けたエネルギー移行のなかで原子力がもたらす恩恵を全面的に活用することはできないと断言。これら3つの分野で行動を取ることができれば、原子力設備は年間3,500万kWのペースで増設可能になり、2050年までに新たに10億kWという目標達成も夢ではなくなる。必要なことは、年間の新設ペースを現状レベルの3~4倍に速めることだけであり、それには確固たる政策的支援の確保が主要課題になると説明している。