米エネ省長官、送電網の回復力保全で原子力支援を連邦エネ規制委に指示

2017年10月3日

 米エネルギー省(DOE)のR.ペリー長官は9月29日、国内送電網の信頼性、およびトラブル等による一時的な機能停止から回復する力を保全するため、電力卸市場における原子力と石炭火力への支援措置も含め、直ちに行動を起こすよう連邦エネルギー規制委員会(FERC)に正式に指示した。
 FERCは1990年代半ば、電力卸市場を自由化する目的で複数の独立系統運用者(ISO)や地域送電機関(RTO)の設立を推奨。これらは国内の送電施設を広域に制御しているが、取引を組織的に運用する市場においては、様々な災害等で燃料供給が途絶した場合でも発電可能な伝統的ベースロード電源の閉鎖が急速に進んでいる。このため、送電網の信頼性と回復力の維持に資するこれらの電源に対し、十分な対価を与える方向で市場改革を進めるため、新しい規則の制定を要求したもの。このような喫緊の課題には迅速に対応するとの方針により、ペリー長官はFERC委員長と委員らに宛てた28日付けの指示書簡に、同規則の制定案告示(NOPR)を同封した。NOPRが連邦官報に掲載されてから60日以内に規則制定のための最終アクションを固めるよう指示しているほか、代替案として、提案規則を暫定的な最終規則として直ちに発令し、パブリック・コメント収集後に修正することを指示。ISOとRTOに対しては、規則発効後15日以内に、同規則の遵守を誓約する文書の提出を要請している。

 ペリー長官は就任した翌月の今年4月、信頼性の高い電力システムを確保するための政策提言に向けて、国内電力市場や送電網に関する60日間の調査をスタッフに指示した。これを受けてDOEスタッフは8月下旬、改革された電力卸市場の全体像と、送電網の信頼性と回復力に関する評価報告書を同長官に提出。FERCに対する今回の指示は、この報告書等に基づくもので、FERC宛て書簡の中で長官はまず、近年の市場構造の変化が引き起こした結果として、伝統的なベースロード電源の多くが閉鎖に追い込まれている実態を解説した。2010年から2015年までに閉鎖された発電所は石炭火力が主流だったが、2016年から2020年までの5年間に閉鎖済み、および閉鎖が計画されている発電設備3,440万kWのうち79%が石炭と天然ガス蒸気タービン発電所であるとした。これらに次いで多いのが原子力発電所の15%で、2002年から2016年までに466.6万kW分の原子力発電設備がすでに閉鎖済み。2016年以降、閉鎖計画が発表された8基、716.7万kWの設備容量には、州政府の救済により早期閉鎖を免れた7基分が含まれていない事実を明記した。

 同長官は次に、ISOやRTOが制御する卸市場においては、送電網の回復力保全に資する特質をもった電源に対して、必要な対価が支払われていないとの認識が高まっていると指摘。そのような利点を適切かつ正しく評価した上で、それを十分埋め合わせるだけの価格が市場で設定されていないことを理由として挙げた。また、FERCの指定機関である北米電力信頼度協会(NERC)の見解を引用し、「北米の電力システムは、LNGと再生可能エネルギーが成長する一方、化石燃料と原子力による発電設備が閉鎖していくなど、急速に大きな変革を遂げつつある」と断言。こうしたシフトは、連邦政府や州政府、地方自治体による政策、および低価格な天然ガス、電力の市場原理などによって引き起こされたもので、電源構成要素が変化したことは基幹電力系統(BPS)の運用特性も大きく変化させた。送電網の信頼性と回復力を今後も保証するためには、この運用特性の変化をよく理解した上で、適切に管理しなければならないと警告しており、石炭火力と原子力の発電設備は特に、稼働率が高くて施設内に燃料を貯蔵しておけるという付加価値があると指摘。燃料の供給チェーンが途絶しても数か月間、運転継続が可能な点を強調した。

 過去数年の間に、FERCはISOやRTOが制御する電力卸市場において広範な価格形成を進めてきたが、ペリー長官によれば、このようなエネルギー市場や設備容量市場、電気品質の維持(アンシラリー)サービス市場での価格形成方法に欠陥があることをFERCはすでに気付いている。それらの欠陥は、送電網の信頼性と回復力を弱めることにつながるため、FERCは直ちに行動を起こさねばならない。今のところ、FERC、およびISOとRTOは根本的課題解決のための取り組みを十分行っていないが、送電網の回復力維持に必要な燃料貯蔵型ベースロード電源、すなわち石炭火力と原子力がこれ以上失われることは阻止する必要があると同長官は指摘。具体的には、送電システムの回復力にとって脅威となる市場構造の歪みが長期化しないように、ISOとRTOに要求する規則を制定しなくてはならず、そのために燃料貯蔵型ベースロード電源の特質と価値を高く評価した上で、経費の全面的な回収を許可するなどの行動を取ることは、FERCが緊急に負うべき責任だと言明した。

 ペリー長官が提案した規則では、支援を受けられる発電所の適格基準として、物理的にISOやRTOの制御区域内に立地することや、極渦現象のような天災および人的災害、ハリケーンなどの異常気象遭遇時にもサイト内で90日分の燃料供給力があること、周波数や電圧といった電気品質の保全も含め信頼性維持に資するサービス提供能力があること、環境保全上の規制すべてを遵守していること、などを列挙。ISOやRTOが制御する市場に対しては、経費を全面的に回収できる公正かつ合理的な料金表と、適正な利益率の設定を同規則によって義務付けるとしている。