米国の原子力技術革新推進組織、SMRの商業化に向け政府に支援要請

2017年10月13日

 米国の「原子力イノベーション連合(NIA)」は10月11日、国内企業が進めている小型モジュール炉(SMR)の開発・商業化活動に対し、支援提供することを政府組織に呼びかける報告書を公表した。NIAは、原子力分野の技術革新と革新的な原子炉設計の商業化を提唱する技術専門家や企業、投資家、環境保護団体、学者等の連合組織で、新しいSMR設計の技術開発を国内で後押しすれば、今後数十年にわたって米国が世界の原子力技術開発のリーダー的地位を確保することにつながると認識している。全50頁におよび同報告書では、連邦政府や州政府、その他の政策立案者それぞれについて、「このように極めて貴重なエネルギー技術」の開発を支援する際のガイダンスとなるものを明記。国家安全保証上の責務と世界規模のエネルギー問題に対処することが可能なSMR設計の開発支援を、軽水炉と非軽水炉の両方について加速するよう勧告している。

 米国では、巨額の初期投資がネックとなって従来の大型発電炉の新設気運が一段落する一方、SMRについてはメーカー各社の研究開発活動が年々活発化しており、米エネルギー省(DOE)は2016年2月、アイダホ国立研究所内にニュースケール社製SMR初号機を建設するための支援協力で、事業者となるユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)と合意。ニュースケール社は今年1月、SMRとしては米国で初めての設計認証(DC)審査を原子力規制委員会(NRC)に申請した。また、テネシー峡谷開発公社(TVA)は2016年5月、2基以上のSMR建設を想定した事前サイト許可(ESP)をテネシー州クリンチリバー・サイトについてNRCに申請。NRCは同年12月にこの申請を受理しており、米国初のSMR建設に向けた様々な動きが、現実味を帯びて見受けられるようになった。

 こうした動向を背景に、NIAは米国内で石炭火力発電所と原子力発電所の経年化が進んでいることや、地球全体では温暖化問題への対応が差し迫っていることを挙げ、再生可能エネルギーその他の低炭素電源と同様、SMRはクリーンかつ発電量の制御が可能な次世代のエネルギー源として適していると指摘。世界中で増加するエネルギー需要を満たす一助としてのポテンシャルをSMRは有しており、出力も途上国で必要とする規模に合わせ易いなど、従来の大型軽水炉を代替する技術選択肢になるとした。また、天候に左右される再生エネ発電の補完能力など、運転上の柔軟性や安全性も向上しており、国内での建設から海外に輸出する機会までを合わせると、SMR産業は数十万人分の雇用を米国で創出・維持できる可能性があるとしている。
 NIAはまた、様々な原子炉技術に対して投資を行い、開発の各段階を通して継続的に支援することで、米国政府は選択すべき技術への誘導を市場に任せつつ、SMRの技術革新を支えることができると指摘。SMRに的を絞った開発気運が、この国の将来的なクリーン・エネルギー・オプションの選択肢に大きな違いを生じさせるかもしれないという重要な岐路に、米国は差し掛かっていると述べた。

 その上でNIAは、政府その他への勧告事項として以下の点を提示している。
・議会と連邦政府は、新しい原子炉設計の開発や非軽水炉型も含めた設計の許認可に対する支援を拡大するとともに、設計が完成段階に到達するまで支援を継続する。
・議会は原子力発電税の控除制度を修正し、CO2を排出する天然ガス火力との経済的ギャップをSMR初号機が埋められるよう支援する。
・DOE長官は、UAMPSとTVAが進めるSMR開発プロジェクトで電力購入契約を締結し、連邦政府の施設用にクリーンで確実な電力供給を確保する。
・各州政府は、供給電力の一定割合を再生エネ源で賄うことを義務付ける「再生エネ利用基準制度(RPS)」の範囲を「クリーン・エネルギー基準(CES)」に拡大し、SMRその他の先進的原子炉技術が含まれるようにする。