韓国の公論化委、新古里5、6号機の建設再開を政府に勧告
韓国の文在寅政権による脱原子力政策を受けて、建設工事と建設準備作業が一時停止されていた新古里原子力発電所5、6号機について、3か月にわたって国民の意見集約を進めていた「公論化委員会」は10月20日、「建設再開を政府に勧告することを決定した」と発表した。
アンケート調査や総合討論会などを経た最後の4次調査で、471人の市民参加団に最終的な選択を行わせた結果、「建設再開」を選択した人の割合が59.5%に高まったと指摘。「中止」を選択した40.5%とは、誤差の範囲を超える19ポイントの有意な相違があった点を理由として説明した。ただし、今後は原子力発電の割合を縮小していくこと、新古里5、6号機の建設再開にともなう補完措置について、詳細な計画を早急に準備することなども併せて勧告している。文大統領は「公論化委員会がどのような結果を出しても尊重する」と述べたことが伝えられているが、新古里5、6号機に関する最終判断は24日の閣議により決定すると見られている。
文政権の脱原子力政策では、2080年頃までに原子力発電をゼロとするため、新規原子力発電所建設計画を全面白紙化、既存炉の運転期間延長を禁止、期間延長して運転中の月城1号機を出来るだけ早期に閉鎖、などが盛り込まれた。2016年6月に建設許可がおりていた新古里5、6号機の処遇については、投入済みのコストや補償費、電力設備予備率などを総合的に考慮する必要があることから、民主的な議論の過程を経た世論調査方式で社会的合意を導き出すことを内閣が決定。事業者の韓国水力・原子力会社(KHNP)はその間、準備工事を停止すると7月に発表していた。調査を担当する公論化委員会は、関係分野の専門機関や団体から選出された中立的立場の委員によって厳正に運営され、まず1次調査として電話調査を実施。回答した2万6人の市民の中から500人の市民参加団が選定され、このうち471人が2次調査を経て2泊3日の総合討論会(3次調査)と最終選択(4次調査)に参加していた。結果として、同委員会が政府への提言を決めた事項は以下の通りである。
(1)最後の4次調査で「建設再開」の選択割合が59.5%と有意に高くなったことから、最終的に新古里5、6号機の建設工事を再開するよう勧告する。1次調査時から比べて、「中止」との差は回数を重ねる毎に大きくなった。
(2)委員会としては、原子力発電の割合を縮小する方向でエネルギー政策を推進するよう勧める。これは、最終調査で「原子力発電の縮小」を選択した人の割合が53.2%となり、「原子力発電の維持(35.5%)」や「拡大(9.7%)」を大きく上回ったことによる。
(3)委員会としては、建設再開にともなう補完措置として、市民参加団が提案した事項について詳細な実行計画を早急に準備・推進することを勧告する。具体的な補完措置は、「原子力発電所の安全基準を強化する(33.1%)」、「再生可能エネルギーの割合を増やすための投資を拡大する(27.6%)」、「使用済燃料の処分対策を出来るだけ早急に策定する(25.3%)」、などである。
(4)委員会としては、今後の社会的な論争案件においても軋轢を減じ、共存の道を模索できるよう以下の点を追加でコメントする。すなわち、新古里5、6号機について行われた公論化は、エネルギー消費者である市民の参加と合意に基づく政策決定過程として大きな意味を持つ。また、高度に専門的分野であるがために、これまで専門家や地域住民など直接の利害関係者を中心に議論されてきた原子力発電所関連の問題を、すべての市民の問題とした点にも大きな意味がある。さらに今回の公論化は、代議制民主主義を補完することが可能な、民主的な意見収斂手続きを本格的に推進する契機となった。新古里5、6号機の公論化における経験や資料が、民主的な共存手段として韓国民社会の様々な場面で活用できるよう、政府レベルでの支援を要請したい。