IAEAの天野事務局長:「持続的経済成長に対する電力の安定供給で一層の原子力必要」

2017年10月31日

 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は10月30日、「先進国であれ発展途上国であれ、世界の各国が持続的な経済成長に必要なエネルギーを十分確保しつつ、パリ協定における温室効果ガス排出抑制の目標達成を目指すのであれば、ベースロード電力を安定的に供給できる原子力発電の利用を一層拡大すべきだ」との見解を表明した。
 この日、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開幕した「21世紀の原子力発電に関する国際閣僚会議」の冒頭挨拶で述べたもので、原子力による発電量の割合は世界全体で11%に過ぎないものの、低炭素電源に限った発電量のシェアは約3分の1にのぼるという事実に言及。世界中の原子力発電所によって年間約20億トンのCO2排出が抑えられ、これは毎年4億台以上の車を路上から排除したのに相当すると指摘し、4年前の前回会議で示した「原子力抜きでは十分なエネルギーの確保と地球温暖化の影響緩和という課題の解決は難しい」との主張を改めて強調している。

 この閣僚会議は、IAEAが経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)との協力で、2005年から4年毎に開催しているもので、初回のパリ、第2回目の北京、第3回目のサンクトペテルブルクに次いで4回目。世界の将来的なエネルギー・ミックスの中で、CO2を実質的に排出しない原子力発電が電力需要の増加や地球温暖化等に対して果たし得る役割を、政府高官級の対話を通じて模索する場を提供している。
 天野事務局長は今回の会議が初めて、最初の原子力発電設備を建設中の国で開催されたことを歓迎。現在、世界では448基の原子炉が30か国で稼働中のほか、アジア地域を中心に57基が建設中、さらに約30か国が新たに原子力の導入を検討しており、UAEでは同時建設中の4基が2018年~2020年までに送電開始予定であるとした。また、ベラルーシでも初の原子炉2基が2019年と2020年に起動すると見込まれるとした上で、2050年までに世界の原子力発電設備は高いレベルで推移する可能性があるものの、今後数年間の拡大ペースは低下するとIAEAが予測していることを明らかにした。

既存炉の継続利用
 国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、世界で現在、発電されている電力の約7割が化石燃料によるもので、2050年までにCO2の排出量抑制目標を達成する場合、電力の約8割を低炭素電源で発電する必要があるという。それには、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの役割が益々重要になっていく一方、近代的な経済活動に必要なベースロード電力を安定的に供給するためにも、原子力の利用拡大が必要になると天野事務局長は明言。既存の原子力発電所は可能な限り長期間、フル出力で運転し続けることが重要だとした上で、IAEAも発電所の運転管理や停止期間中の管理、燃料の合理化等に関する事業者の経験が互いに共有されるよう、機会を提供すると述べた。
 また、設計ベースを超えて40年、60年、あるいは80年でも既存炉を安全に運転し続けられると多くの事業者や規制当局者が確信していることから、IAEAはこの分野についても、経験の共有機会を各国に提供していると強調。さらに、長期運転の安全性を国際的に保証するため、IAEAがピアレビュー・サービスを行っている点を挙げた。

原子炉の新規建設
 新規の原子力発電所開発については、明らかに建設ペースを上げていく必要性があると天野事務局長は指摘。原子力の利用を拡大できない場合、不足分を十分に補えるほどその他の低炭素電源を拡大することは難しいとの認識だと説明した。事務局長としては、今後数年間の継続的な設計改善努力の結果、原子力発電の経済性とコスト効果が向上し、安全性や放射性廃棄物に対する一般市民の懸念も軽減されることを期待。実際の動きとして、過去4年間に革新的な安全性能を有する様々な新型軽水炉が起動段階、あるいは建設の最終段階に入ったという事実に触れ、このような新世代の原子炉は、世界中で原子力発電設備のリプレースや拡大を加速する上で主要な役割を果たし得るとした。
 また、様々な小型モジュール炉(SMR)設計も、近いうちに建設できる準備が整ってきたと事務局長は説明。小規模の送電設備しかない地点や遠隔地、電気が来ていない地域においても、初めて原子力発電を利用する可能性が出てきたと述べた。

 近年の傾向としては、(1)原子力発電設備を拡大する中心地域が欧米からアジアにシフト、(2)発展途上国が原子力発電の導入を検討、といった2つの興味深い特徴が見られるが、中国やインドのように多くの人口を抱える国が莫大な電力を必要としつつ、温室効果ガスの排出量削減も目指すのであれば、驚くには当たらないと天野事務局長は指摘。IAEAとしては、原子力開発利用の先進国と新規導入国のどちらに対しても、開発のあらゆる段階で協力する用意があり、世界標準として設定した安全基準やセキュリティ・ガイダンスを通じて、計画の立案からサイト選定、法制や規制上の問題、技術訓練、発電所の運転から廃止措置までのあらゆる分野で、詳細かつ実用的な支援を提供するとした。また、原子力発電開発が核兵器の拡散につながらないことを保証するため、IAEAが181か国で保障措置を実施している点を強調した。