英国の非政府調査組織が勧告:「原子力新設計画に政府はもっと関与すべき」

2017年11月2日

 英国のマンチェスター大学とシェフィールド大学が支援する共同イニシアチブ「産業戦略委員会」は11月1日、政府が2008年から国内で進めている新たな原子力発電所の建設プログラムについて、「今後はプロジェクトのかなりの部分について、英国政府が所有権を取得することを検討すべきだ」と勧告した。
 英国の将来的な繁栄を目指した政策枠組を策定する際に必要となる、新しい長期的な戦略設計を政府に提案するための最終報告書の中で示したもの。進展中の原子力発電所新設計画の大半を外国事業者やメーカーが主導し、外国政府が出資していることから、同委は国内の原子力サプライ・チェーンが弱体化していくとの懸念を表明。新設計画に使われる最高品質の機器を、英国企業が今よりも多く供給できるよう、政府が英国独自のサプライ・チェーン開発を促していくべきだと訴えている。

エネルギーの無炭素化
 産業戦略委は、政府とは独立の立場で今年3月に発足した権威ある調査組織で、産業戦略関係の政策提案書に対する諮問を政府から受け、同委としての見解を初の刊行物として4月に公表。7月には、今回の最終報告書に先立つ報告書を、すべての政党やビジネス業界、地方政府や中央政府の関係者向けに発表していた。100頁を超える最終報告書では、新たな産業戦略における目標の達成アプローチを勧告しており、現代社会を動かしていくすべての側面は、信頼性のある確実なエネルギー供給によって保証されると明言。産業戦略が必要とする重要要素として、効果的なエネルギー・インフラの確保を挙げた。しかし、エネルギー技術とその経済性が急速に変化するなか、地球温暖化防止という差し迫った課題にも直面しているため、政府はエネルギーを無炭素化する必要に迫られているとした。
 英国は主に、石炭火力をガス火力に転換することでCO2排出量の大幅な削減に成功したが、低炭素エネルギーの供給で最も大きく貢献したのは原子力だと同委は指摘。英国では現在、経年化が進んだ新型ガス冷却炉(AGR)を中心に総電力需要量の約17%を賄っているものの、比較的新しい軽水炉1基を除き、すべてが2030年までに操業を停止する予定である。そのため、遅れ気味の原子力発電所建設プログラムを、至急進めることが重要だと強調した。
 同委はまた、エネルギー政策の戦略目標として、政府が(1)2050年までにCO2排出量の80%を削減してエネルギーを無炭素化、(2)信頼性のある確実なエネルギー供給を保証、(3)経済成長を損なわない程度に価格が適正なエネルギーを確保--を挙げている点に注目。現在の政策や技術で、これら3つすべてを達成することは不可能だとした上で、新たなエネルギー技術の創出につながるような、一層確固たる戦略が今、必要とされていると指摘した。

原子力新設計画に対する英国政府の関与
 こうした状況を背景に、同委は英国における原子力発電所の新設計画が、民間部門による資金調達と運営を政府が支援するという政策に基づき、進められている事実に触れている。現時点で合計1,600万kWまでの新設計画のうち、320万kW分がヒンクリーポイントC計画。その資本費は少なくとも600億ポンドにのぼるが、同委の認識によると、「原子力新設計画に対して政府は直接的な補助金を与えるべきではない」との規定により、政府の影響力が新設計画に及ぶ度合いは著しく減じられた。それでも政府は、融資保証の適用や差金決済取引(CfD)の導入といった形で財政支援を提供。発電された電力の販売価格を設定することで、長期的な利益を間接的に保証しているとした。
 同委は一方、新設計画に関わっている事業者の多くが、原子炉技術の提供メーカーについてはすべてが外国企業である点に言及している。大規模な機器契約は英国内のサプライヤーと結ばれると見られるものの、高品質の機器製造で国内サプライ・チェーンが進展する範囲は、こうした事実により大幅に縮小。外国政府がいくつかの新設計画を実施的に保有していることも含め、投資資金が完全に外国組織からのものであるという事実も、その原因になっていると指摘した。さらに、計画毎に異なる事業者が、異なる原子炉技術を異なるサイトで採用しているため、それぞれについて、独自のサプライ・チェーンが必要になるとの認識を提示。将来的な新設計画では英国政府が関与を深め、国内原子力産業のためのサプライ・チェーンを発展させることが重要だと強調している。