米NASAが火星での有人探査用電源として小型炉の実験開始へ
原子炉の核分裂エネルギーを、火星など地球外惑星における探査活動の主要エネルギー源に活用する試みが実験段階に入っている。米航空宇宙局(NASA)は11月14日、最大出力10kWという小型炉を使って、火星の居住環境にエネルギー供給するとともに、火星の資源を酸素や水、燃料などに変換する機器の動力とすることが可能か、今月から来年初頭まで米エネルギー省(DOE)のネバダ核実験場で実験評価することになったと発表した。
従来のエネルギー源とは異なり、原子炉技術は太陽光が得られる条件や位置とは無関係に、火星のような極端に厳しい環境下でも10年以上稼働可能な、エネルギー密度の高い電源となる可能性があるとNASAは明言。火星での有人ミッションを含め、同技術が多様なミッションに必要な電力を安定的に供給できることを実証し、真に意欲的で活力に満ちた宇宙探査に向けた新しいパラダイム創出の第一歩にしたいと強調している。
この実験プログラムは「Kilopowerプロジェクト」と呼称される計画の一部で、NASAの宇宙技術ミッション本部(STMD)が複数年分の予算を充当。航空用エンジンの研究所として知られるグレン研究センターが機器類の設計から製造まで、同プロジェクトの全段階を管理しており、DOE/国家核安全保障局(NNSA)のインフラ設備や専門的知見、ロスアラモス国立研究所に所属するエンジニアの能力などを最大限、活用している。また、マーシャル宇宙航空センターが、試験プランの策定とその実施で協力。原子炉の供給は、テネシー州オークリッジにあるY12国家安全保障複合施設が担当するとしている。
NASAは過去50年以上にわたる様々な宇宙開発ミッションにおいて、放射性同位元素熱発電機(RTG)を電源として使用してきた。火星では2機の「バイキング」探査機や探査ローバーの「キュリオシティ」に搭載したほか、アポロ月面探査機や「ボイジャー」無人宇宙探査機でも利用。放射性同位体の崩壊熱を利用して発電する仕組みだが、200~300ワット程度の電力しか得られないため、NASAではRTGを超える発電オプションの適用可能性を探っていた。
同プロジェクトで使用する小型炉は、地球外惑星の地表や宇宙で、太陽光に依存せずに電力供給を長期間続けることが前提であるため、NASAは開発アプローチにおいて小さくてシンプルなものを想定した。試作品の発電システムに使用する炉心の大きさはペーパー・タオルのロールほどで、ウラン235を燃料とする頑丈な鋳造炉心。発生した熱は、高効率のスターリング・エンジン(*)で電力に転換する。太陽光が減少する砂嵐の中でも、昼夜を問わず長時間発電できることから、火星のどの地点にいてもコンスタントに電力供給するという課題が解決できるとNASAは強調。氷が存在するかもしれない北部の高緯度地域にも探査地点を拡大できるため、核分裂エネルギーを使った電源は、火星探査において画期的存在になり得るとしている。
今回、実施が決まった実験は、安全確保の原則に基づき段階的に進めるが、フル出力で連続28時間の機器テストもこの中に含まれる。NASAでは、発電システムを地上での実験から宇宙に移すことは可能と認識しており、ネバダでの実験を通じて、同技術の実行可能性に関する多くの課題を解決していく方針。最終的に、真空環境で電子回路の試作基板の実験を行い、関連条件下で機器を作動させることを目標としていることを明らかにした。
【注*】:19世紀初頭に開発された外燃機関の一種。シリンダー内に水素等の気体を封入し、外部から加熱・冷却を繰り返してピストンを作動させるエンジン。