フィリピン、原子力開発プログラムの復活に向けロシアと協力覚書
約30年前に原子力導入初号機の運転開始を見送ったフィリピンのエネルギー省(DOE)は11月15日、小型モジュール炉(SMR)建設に関する実行可能性調査も含め、安全・確実な原子力開発プログラムにつながる国家政策の策定に向け、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社と協力覚書を締結したと発表した。アジアの中でも比較的早く原子力の導入を決めた同国では、1976年に米国企業との協力により、同国初の原子力発電所(60万kW級PWR)がバターン半島で着工。1985年に90%まで完成したものの、チェルノブイリ事故の発生を受けて、当時のアキノ政権はその安全性と経済性を疑問視し、運転認可を発給しなかった。その後の政権は、国産エネルギー開発や輸入エネルギーで国内の急速なエネルギー需要増が賄えなくなった場合に備え、1995年にDOE長官を委員長とする原子力発電運営委員会を設置。2000年代に入ってからは、韓国企業がバターン原子力発電所の修復・再開について事業化の予備調査を実施したが、福島第一原子力発電所事故の影響もあり、原子力開発プログラムの復活には至っていない。
今回の覚書は、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議がマニラで開催されたのに併せ、13日にDOE長官とロスアトム社の副総裁が調印。フィリピンのR.ドゥテルテ大統領とロシアのD.メドベージェフ首相が立ち会った(=写真)。ロシアとの協力を通じて、フィリピン政府は国家政策の範囲内で原子力エネルギーの様々な利用方法を模索していくが、「発電」は特に重要視しているとDOEは指摘。覚書に基づいて、ロシアがこれまでに蓄積してきた原子力関連の膨大な経験や、平和利用関連の安全・確実な新技術が活用可能になるとした。
両国が合意した具体的な協力分野は、主に以下の3点である。すなわち、
(1)国家エネルギー政策の策定とフィリピン国内における原子力開発プログラムの実行に向けた原子力インフラ調査、
(2)修復・再開オプションを含めたバターン原子力発電所の技術的コンディションの点検と評価、
(3)陸上か海上でSMRを建設する実行可能性調査を、技術的、商業的、財政的、および法的側面に限定せずに分析、
--などだ。
両国はまた、従来型の原子力発電所に関しても同様の調査を行う可能性があると示唆。それらは主に、フィリピンの国家的なエネルギー開発計画や政策に準じて、必要と見なされたものについて行われるとした。協力の進め方としては、個別のプロジェクトやタスク毎に共同作業部会を設置する方針。そのほか、専門家や技術情報の交換、ワークショップの開催、人材の教育・訓練なども実施する。覚書に基づく協力期間は5年で、どちらか一方が書面を通じて協力の停止、あるいは終了の意思表示をしない限り、5年単位で更新されるとしている。