豪州企業が2030年以降のSMR導入を政府委に提案
世界最大のウラン埋蔵量にも関わらず商業用原子力発電所の建設が禁止されているオーストラリア(豪州)では近年、この禁止条項の撤廃を求める動きが頻繁に見受けられている。豪州唯一の日刊全国紙である「オーストラリアン」は11月28日、電力市場改革の調整作業を担当する全豪政府間協議会(COAG)のエネルギー・セキュリティ委員会(ESB)に対し、SMRニュークリア・テクノロジー(SMR-NT)社が提出した小型モジュール炉(SMR)の導入提案を大きく取り上げた。
SMR-NT社は独立の立場の専門家によるコンサルティング企業で、原子力発電技術の中でも特に、SMRの立地と建設・運転の促進に関する助言を専門としている。ESBへの勧告の中で同社は、「信頼性が高く価格も適正な低炭素電力の供給という点で、原子力は世界31か国・地域の発電システムに多大な貢献をしている」と明言。豪州における将来のエネルギーにも、原子力は大きく寄与するとの認識を示した。
また、発電システムを設計・企画する上で画期的存在となったSMRを、豪州のエネルギー供給保証計画の中で考慮に入れないのは無分別なことだと指摘。2030年以降、負荷追従運転が可能な原子力発電を豪州の電源ミックスに含めるなど、ESBは豪州の利益に資する短期的および中・長期的計画を、信頼性や価格、CO2の排出抑制などの面で配慮し、策定しなくてはならないと訴えている。
原子力が有する様々な利点
SMR-NT社はまず、原子力の「信頼性」に焦点を当てており、近代的な原子力発電所は信頼性が高いだけでなく、安全かつ稼働率も90%を超えると述べた。豪州の送電網への接続に適した出力5万~30万kWのSMRについては、米ニュースケール社が開発しているモジュール炉(5万kW)の例を提示。12基連結することで60万kWの設備容量が得られ、負荷追従運転が可能で固有の安全性があるため、福島第一原子力発電所のような事故発生を避けることができるとした。
また、SMRの「値頃感」も強調しており、ニュースケール社の協力会社であるフルアー社の詳細分析によると、初号機(FOAK)で1MWあたり500万米ドルという建設単価も、2基目以降は大幅に削減されると説明。FOAKの「耐用期間中の均等化発電コスト(LCOE)」も、資金の調達先次第で1MWhあたり72米ドル~106米ドルになるとの試算結果を明らかにした。
同社は次に、CO2の排出量抑制面で原子力には大きな効果があるとしている。豪州の発電部門から排出されるCO2は、2012年12月時点で年間1億9,100万トンだったが、その後の5年間に風力と太陽光に数十億ドルを投入したにも関わらず、2017年3月現在の排出量は年間1億8,800万トン。豪州が未だに、CO2排出量の大幅な削減に成功していない一方、フランスやベルギー、ノルウェーのように、大容量の水力発電か原子力がエネルギー・ミックスに組み込まれている国では、排出量が少ないという事実に言及した。
2030年にSMR初号機を商業運転へ
このような状況を背景に、SMR-NT社は豪州においても法整備が円滑に進めば、2030年までにSMRを30万kW分、2040年までには約300万kW分を開発することが可能との認識を示している。現在、豪州では2つの連邦法で原子力発電所の建設と運転を禁じているのに加え、4つの州が同様の禁止条項を制定。しかし同社によると、これらは近代的で安全な原子力発電所が豪州にもたらす利点が、十分認識されていない時期に制定された。
2016年5月に南オーストラリア州政府の核燃料サイクル委員会は、連邦政府レベルでこの禁止条項を撤廃するよう勧告した。現在の禁止条項においても、豪州の発電システム設計の中で、原子力発電が有する明らかな利点への配慮が除外されているわけではないが、禁止条項が存在する限り、SMR開発業者が豪州を潜在的な市場として扱う可能性は低いと同社は指摘。これまでに複数の政府報告書が次々に「各技術を公平に扱う利点」を認めてきたにも関わらず、この禁止条項により、その達成は未だに阻まれているとの認識を示している。