英原産協会、民生用原子力部門による英国経済への貢献は64億ポンドと報告

2017年12月5日

 英国原子力産業協会(NIA)は12月4日、国内の民生用原子力部門が2016年に英国のGDPに対して、64億ポンド(約9,699億円)の貢献を果たしたとする調査結果を公表した。
 経済予測と計量経済モデル構築サービスを提供している研究機関「オックスフォード・エコノミクス社」に委託して、民生用原子力部門による経済効果を分析評価したもので、資機材・サービス関連でサプライ・チェーンに費やされた金額や、直接雇用されている約65,000人の従事者が支払った個人消費額を考慮に入れれば、経済影響への増加分は総計124億ポンド(約1兆8,791億円)にのぼると指摘。民生用原子力部門による経済面の足跡は、同部門自体の活動規模をはるかに超えて拡大しており、原子力が英国のエネルギー・ミックスにおける重要な要素になっているとの認識を示している。

 こうしたデータは、NIAが今年初めて取りまとめた「原子力活動報告書」で明らかにされており、NIAは民生用原子力部門における2016年の活動状況を次のように総括した。すなわち、

・既存の原子力発電所が総発電量の21%以上を発電したことで、1年間に2,270万トンのCO2排出が抑制されたが、これは路上からガソリン自動車を3分の1削減したのと同等。

・原子力発電所の発電量が前年実績から45億kWh増加しており、これまで通り、英国における単一の低炭素電源としては最大。

・国内の1,630万世帯に十分な電力を供給。

・一連の新設計画の中では初となるヒンクリーポイントC計画で、部分的な建設工事が開始。

・国内外における重要な契約が多数、英国のサプライ・チェーン企業と締結されつつある。

・国内すべての廃止措置プロジェクトでコスト削減が図られ、セラフィールドでは2億ポンド(約303億円)以上削減。

--などである。

 このような活動を通じて、民生用原子力部門では粗付加価値(GVA)に対する従事者1人当たりの貢献額が平均96,600ポンド(約1,458万円)になったと報告書は指摘。これは英国全体の平均額より73%高く、同部門における先進技術の活用と高度に熟練した労働力が反映されているとした。GDPの0.3%に相当する直接影響はまた、納税額を大きく押し上げており、同部門から2016年に払い込まれた税額は約28億ポンド(約4,243億円)にのぼるとしている。

 報告書によると、民生用原子力部門の恩恵は英国全土にもたらされており、イングランド地方北西部と南西部においては、それぞれ50ポンド(約7,577円)の経済生産のうち、1ポンド(約151円)が原子力産業界の活動によるもの。英国最大の原子力複合施設セラフィールドを擁するイングランド北西部では当然のことながら、国立原子力研究所(NNL)やヘイシャム原子力発電所、URENCO社の濃縮工場などが、最大級の効果を同地域の経済に発揮。2016年に民生用原子力部門は同地域のGVAに約43億ポンド(約6,516億円)貢献しており、これは同地域全体の経済生産の2.7%に相当するとした。
 一方イングランド南西部には、ヒンクリーポイントC発電所の建設サイトがあり、既存の原子力発電所および複数の廃止措置サイトも存在。これらによる経済効果は約16億ポンド(約2,424億円)で、同地域における経済効果としては2番目に大きいと報告書は指摘している。

 今回取りまとめた包括的データについて、NIAのT.グレイトレックス理事長は、「高度な技能を要する高給な雇用の創出で、民生用原子力部門が重要な役割を果たしていることが分かる」とコメント。英国経済に大きく寄与するとともに、低炭素な電力を消費者に提供していると指摘した。しかし、2030年までにサイズウェルB発電所を除くすべての既存原子力発電所が閉鎖予定であるという事実に触れ、「産業界も政府も無関心でいるわけにはいかない」と言明。リプレース用の新しい原子力発電所を建設したり、廃止措置プロジェクトを継続的に進めて行く必要性を強調した。
 また、民生用原子力部門は、政府が進めている産業戦略や、英国の産業遺産において重要な一部分であるとの認識を提示。同産業戦略で、政府が原子力部門との「連携協定」を通じて、将来的な事業チャンス確保のための支援を行えば、原子力による経済貢献を下支えするだけでなく、拡大することにもつながるとしている。