米エネ規制委、原子力等に対する支援規則の制定手続きを打ち切り

2018年1月10日

 米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)(注*)は1月8日、送電網の信頼性と一時的な機能停止からの回復力保全を目的にエネルギー省(DOE)長官が提案していた規則の制定手続きを打ち切ると発表した。その一方で、大容量の送電網における全体的な回復力を検証するため、新たな手続きの開始を関係機関に指示したことを明らかにした。
 DOEのR.ペリー長官は昨年9月末、様々な自然災害等で燃料供給が途絶した場合でも発電が可能な伝統的ベースロード電源として、原子力発電所と石炭火力発電所を特定。送電網の信頼性と回復力の維持に資するこれらの発電所が、これ以上早期閉鎖に追い込まれないよう支援するため、コストの全面的回収を規定する提案をFERCに通知するとともに、規則制定に向けた最終アクションを早急に取ることを指示していた。
 しかし、この提案について議論したFERCは、自由化された電力卸市場を運営する独立系統運用者(ISO)や地域送電機関(RTO)に買取価格(タリフ)の変更を要求するのであれば、DOE長官の提案に連邦動力法(FPA)に基づいた確固たる根拠が含まれねばならないと言明。同提案がそうした基本的要件を明確に満たしていない以上、これに基づく規則制定手続きは打ち切らざるを得ないと結論付けた。また、「送電網の回復力や信頼性の問題は、特定の電源の早期閉鎖に起因する」と一部のコメンテーターが主張しているが、FERCとしては、このような主張によってRTOやISOの既存のタリフが不公平かつ不合理であることを証明できないとしている。

 FERCはこの日、新たな手続きとして、大容量の送電網における回復力を保全する上で、FERCや市場が追加のアクションを取る必要があるかについて、RTOやISOに情報提供するよう指示した。米国経済とエネルギー供給セキュリティにとって、信頼性のある電力が適正価格で供給されることは非常に重要であり、FERCとしては送電網の回復力問題に油断なく気を配る必要があると認識。このため、この手続きを通じて、送電網の回復力が意味するものや必要とするものについて、FERCと産業界その他の関係者間で共通の理解を得ることが目的だとした。また、それぞれのRTOやISOが担当地域毎の回復力をどのように評価しているかや、提供された情報を使ってFERCの追加アクションが適切なものであるかについても、見極めることになる。
 RTOらはFERCの指示発令後、60日以内に要求された情報の提出を義務付けられている。FERCはRTOらのコメントに対する意見も、その他の関係機関から募集するとしている。

 FERCの決定についてDOE長官は、「送電網の長期的な回復力を危険にさらしている市場の歪みに対し、さらなる評価作業を行うなどの配慮を講じてくれた」と歓迎。自らが意図した通り、自身の提案によって、送電網の回復力について国民的な議論が巻き起こったと指摘した。また、天候関連のストレスがかかった時は特に、(原子力のように)サイト内で燃料の確保が可能なベースロード電源こそが、信頼性のある適正価格の電力供給を行えるという点で疑いの余地はないと改めて強調している。

 一方、米国内の原子力産業界を代表する原子力エネルギー協会(NEI)は同日、FERCが原子力発電所保持のための是正措置を取らなかったとして失望感を表明した。M.コースニック理事長は、原子力発電所が米国のエネルギー供給セキュリティや送電網の回復力と信頼性の維持、国家経済の成長および環境保全にも貢献する戦略的資産であると明言。市場が短期的な価格シグナルのみに反応し、原子力発電所の持つ重要な役割を無視するような現状では、稼働率の良好な原子力発電所の早期閉鎖が一層加速されることになると述べた。そして、一旦閉鎖されれば、その発電所が復活することは永久にないと警告している。

 
注*:独立の規制機関として州際の送電線、石油・天然ガスパイプライン料金を規制・監督している。大統領が任命する5人の委員で構成され、送電や州際の卸電力取引、高圧州際送電系統の信頼性確保などで規制権限を持つ。