米WH社、鉛冷却高速炉開発でイタリア企業と協力合意
米国のウェスチングハウス(WH)社は2月22日、鉛冷却高速炉(LRF)技術の開発で、イタリアの国家新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)およびアンサルド・ヌクレアーレ社と協力協定を締結したと発表した。
イタリアは1990年にすべての原子力発電所を閉鎖したものの、欧州原子力共同体(ユーラトム)が進めるLFR研究開発プロジェクトにおいては、ENEAとアンサルド社が主導的役割を担っている。一方のWH社は2015年、米エネルギー省(DOE)が新型原子炉概念開発で産業界とのコスト分担プロジェクト案を募集した際、米国内の国立研究所や大学、企業で構成されるLFR研究開発プロジェクト・チームにより、2035年頃にLFR技術の実証を行うことを提案していた。同社は今回、固有の安全性と経済的競争力を併せ持つ次世代原子力発電所の開発を目指してENEAらと力を合わせ、クリーン・エネルギー産業を一変させると言われているLFR技術の商業化を実現したいとの抱負を表明している。
世界では現在、冷却材としてナトリウム、ガス、鉛を使用する3種類の高速中性子炉について研究開発が進められており、これらに超臨界水冷却炉(SCWR)、超高温炉(VHTR)、溶融塩炉(MSR)を加えた6つの原子力システムは、「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)」で2030年までの実用化を目指す対象設計となっている。鉛の腐食性というLFRの課題により、ナトリウム冷却高速炉(SFR)の開発が先行しているが、LFRは中性子の吸収量が少なく、ボイド係数が負であるなど安全性が優れているため、ロシアでは2014年9月に電気出力30万kWのパイロット実証炉「BREST-300」の詳細設計が完成。トムスク州セベルスクにあるシベリア化学コンビナート(SCC)での建設が計画されている。
ユーラトムは、第5次~第7次の欧州研究開発フレームワークの下で長期的にLFR開発を進めてきており、「欧州持続的原子力産業イニシアチブ(ESNII)」におけるLFR開発ロードマップのなかで、電気出力12万kWの実証炉「ALFRED」を2025年までに開発すると明記した。これに基づきENEAとアンサルド社は2013年、「ALFRED」をルーマニア南部のピテシュチで建設するための協力覚書を同国の原子核研究所(ICN)と締結しており、総経費10億ユーロ(約1,315億円)という設計・建設計画が開始された。また、これに続く商業炉として、ユーラトムは出力60万kWの「ELFR」の設計活動も進めている。
WH社は、将来的な世界市場のニーズに合ったコスト面でも有利な次世代技術開発を目標の1つに掲げており、LFRについては商業的に実現可能なものとする技術ロードマップを策定した。達成すべき重要項目としては、固有の安全性に加えて資本コストの削減、耐用期間中の均等化発電コスト(LCOE)に競争力を持たせること、放射性廃棄物の発生量削減、再生可能エネルギーの間欠性を補える柔軟な発電、および熱電併給や脱塩など非発電分野への利用が可能であること、--などを列挙。このような特長により、競争力のある無炭素発電ソリューションを提供できるとしており、自由化と競争化が高度に進んだ2030年代のエネルギー市場においても、十分活躍が可能なLFR開発を目指していることを明らかにした。