英政府、民生用原子力部門に対するBrexitの影響について見解
英国議会下院のビジネス・エネルギー・産業戦略委員会は3月8日、欧州連合(EU)からの離脱(Brexit)が国内の民生用原子力部門に及ぼす影響について、英国政府の見解と方向性をとりまとめた報告書を公表した。
同委は、省別、政策案件毎に下院が招集する特別委員会の1つ。昨年12月に作成した報告書で同委は、保障措置体制など規制面も含めて原子力部門がBrexit後も確実に活動を続けられるよう、政府が欧州委員会(EC)と実施中の交渉において、欧州原子力共同体(ユーラトム)との将来的な関係に関する見解を出来るだけ早急にまとめることを政府に勧告。今回の報告書は、各勧告項目に対する政府の回答を示した形になっている。
その中で政府は、英国がユーラトムおよび国際原子力機関(IAEA)と結んでいた3者間の保障措置協定に代わるものとして、この夏にもIAEAと新たな2者間「自発的協定(VOA)」および「追加議定書(AP)」について合意することを目指しているとした。また、原子力規制庁(ONR)がすでに、英国独自の保障措置体制を構築する準備作業を開始しており、昨年秋には新しい査察官の募集を実施。2019年3月まで募集を継続するとともに訓練も実施中であることを明らかにした。ONRはさらに、「保障措置情報管理システム」を設置するため、この春にも入札を行う。同システムにより、ユーラトムがIAEAに提出していたデータ報告書と同形式のものを作成する考えで、年内はシステムの構築と試験を実施し、2019年3月までに運用可能にするとしている。
同報告書に明記された英国政府の主な見解は以下のとおり。
政府としては、Brexitが国内の民生用原子力部門に与える影響について同委がまとめた報告書、および勧告を歓迎しており、これらは政府がEUとユーラトムからの離脱にともなう全体プログラムを作成する上で価値ある貢献をしてくれた。
この問題に関するECとの交渉において英国政府は2つの戦略的目標を掲げており、1つは将来的にもユーラトムと緊密な協力関係を維持していくこと。EUからの離脱に関する広範な協議の一部として、ユーラトム問題も移行期間中の交渉に含めたいと考えている。もう1つはこれと並行して、離脱後最初の日から英国が独立的立場の責任ある原子力開発利用国として活動するために、あらゆる手段を講じることである。この点で政府は現在、ONRと緊密に協働中。ONRは、英国がユーラトムによる保障措置の適用から外れた後、英国独自の保障措置体制を国際的な保障措置や核不拡散の基準に適合させる役割と責任を担うことになっている。
ユーラトムからの離脱に関するECとの交渉は、過去数か月間で大きく進展し、第1段階では核物質や放射性廃棄物、保障措置義務などに関する法的・技術的課題について協議を行った。次の段階では、英国とユーラトムの将来的な関係に重点が置かれる予定だが、両者が緊密に協力することや、ユーラトムが現在提供中の保障措置体制と同等の効果と適用範囲を持った体制を英国で確保することは、双方にとって有益だと政府は確信する。交渉の結果がどうであれ、民生用原子力産業が活動を続けていけるよう、政府があらゆるオプションを追求することは重要と考えている。
一方、政府当局は、民生用原子力部門における対外協力や貿易の途絶を防ぐため、主要な国際パートナーである米国、カナダ、日本、オーストラリアの4か国と、2国間原子力協力協定(NCA)の締結に向けた協働作業を行っている。この協議は順調に進展しており、4つのNCA文案はこの夏中に完成する見通し。ユーラトムを介したNCAの適用が終了すると同時にこれらのNCAが発効するよう、年末までに議会に批准を求める方針である。その後は2019年初頭に公文を交換し、英国の意思に対する了解を相手国から取得、2019年3月にこれらを発効させることができると確信している。
英国の原子力産業が国家の重要な戦略的部門であることに変わりは無く、ヒンクリーポイントC原子力発電所建設計画のように重要なプロジェクトや投資計画に悪影響の及ばないことを保証したい。そのため英国は、今後も原子力産業界が必要とする有能な人材を、欧州その他の原子力産業界から受け入れ続ける方針。ただしその際は、国益に適う移民システムで管理を行う必要がある。
また、ユーラトム協定から離脱したとしても、原子力研究開発に対する英国の意欲が縮減することは決してなく、英国にある欧州トーラス共同研究施設(JET)の国際研究開発プロジェクトや国際熱核融合実験炉(ITER)計画に留まれるよう、代替ルートを確保する計画。これらを通じて核融合関係の専門的知見を維持することは、英国がユーラトムと今後も戦略的に連携していく際の、重要目的の1つとなっている。
【関連情報】
英国原子力産業協会(NIA)が2017年5月に公表した「英国のユーラトムからの離脱」 の仮訳を掲載しました。