スイス:ベツナウ1が原子炉容器審査をクリアし、3年ぶりに再稼働
スイスでベツナウ原子力発電所を運転するAXPO社は3月20日、原子炉容器(RV)母材の健全性を評価するための広範な試験・分析審査を終えた1号機を(PWR、38万kW)3年ぶりに送電網に接続したと発表した。
スイス連邦原子力安全検査局(ENSI)が6日付けで同炉の安全性保証文書(セーフティケース)を承認したことによるもので、停止していた期間中、緊急用電力供給システムの洪水対策や地震対策を講じたほか、RV上蓋の取替も実施した点を同社は強調。セーフティケースの徹底的かつ資源集約的な審査の過程で、同炉は60年間の長期運転で要求される安全・技術要件すべてをクリアしていることが確認されたと指摘した。また、2034年までに脱原子力を段階的に達成するとした政府の「2050年までのエネルギー戦略」を支持しつつも、同炉は再び、スイスにおけるエネルギーの生産と供給保証に大きく貢献していくとしている。
スイスでは福島第一原子力発電所事故後に国民の反原子力気運が高まり、既存の原子炉5基を約50年間とされる運転期間を終えたものから順次閉鎖し、国産再生可能エネルギー開発の推進といった対策を実行することになった。一方で、電力需要の約4割を賄うこれら原子炉の急激な削減は電力不足を引き起こすとの認識もあり、緑の党が2016年に「脱原子力を5年前倒しに達成するイニシアチブ」を国民投票にかけた際、54.2%の国民が反対票を投じている。同国ではまた、原子炉の運転認可に期間が定められておらず、ENSIが安全性を保証する限りは継続して運転することが可能である。
2012年夏にベルギーで、ドール3号機とチアンジュ2号機のRV底部に毛状ヒビの兆候が検出された後、ENSIは2013年に既存炉5基の事業者に対してRV製造関係文書の点検を指示。ベツナウ原子力発電所では、2015年7月に実施した超音波探傷検査で1号機のRVにヒビの兆候が検出されたため、AXPO社は同炉の再稼働を延期して追加検査の作業手順計画書(ロードマップ)をENSIに提出した。
同炉のRVは1960年代にフランスのクルーゾー・フォルジュ社が製造したもので、当時の鍛造品製造プロセスでは、RVの母材中に非金属内包物が生成される可能性があった。このためAXPO社は、ロードマップに沿って1号機RVリングの複製品を使った様々な試験を数か月間にわたって実施。これには、RV母材で探知された内包物の組成分析や内包物がRVの特性に及ぼす影響調査、母材であるスチールの強度試験なども含まれていた。
同社は2016年11月、このように詳細な物質特性評価検査の結果から、1号機のRVに安全上の影響は及ばず、同炉を2030年まで60年間運転した場合も、適切な安全裕度が確保されるとするセーフティケースをENSIに提出。ENSIは2017年12月にセーフティケースの補足文書を追加で受領した後、国際的に著名な専門家も交えた審査の結果として、内包物がRVの安全性に悪影響を及ぼすことはないとの見解を今月6日に公表していた。
なお、ENSIは同じ日、RVの健全性問題を巡る2012年以降の動向を以下の表に整理。既存原子炉5基のうち、ライプシュタット原子力発電所(BWR、127.5万kW)のRVは、製造者と製造プロセスともにベルギーの原子炉とは異なっていた点を指摘した。また、2022年まで稼働可能なミューレベルク原子力発電所(BWR、39万kW)については、事業者が長期の運転にともなう規制面や技術面その他の影響を考慮し、2019年12月に前倒しで閉鎖することを2016年3月に決定している。