ベルギー政府、新しいエネルギー戦略案で脱原子力政策を維持

2018年4月5日

 ベルギー政府は3月30日に新しいエネルギー戦略案を閣議決定し、この中で現行の脱原子力政策をそのまま維持していることを明らかにした。商業炉全7基を2025年までに全廃する一方、代替電源として風力など再生可能エネルギー源の増設に拍車をかける方針。それまでは、連邦原子力規制局(FANC)が原子力発電施設の安全性を確実に保証すると明記するに留まった。これらを盛り込んだ法案を5月末までに作成して閣議にかけ、今年中にも統合国家エネルギー戦略を完成させるとしている。

 ベルギーではチェルノブイリ事故後の2003年、緑の党を含む連立政権が脱原子力法を制定しており、原子炉の運転期間を40年に制限するなどにより2025年までに脱原子力を達成するとしていた。しかし、総電力需要量の約5割を賄う原子力の代替電源が確保できず、2009年当時の政権は2015年に閉鎖予定だった2基について、運転期間を10年延長する代わりに税金の支払いを求める覚書を事業者と締結した。
 この覚書が法制化される前に福島第一原子力発電所事故が発生したため、2012年の政権は同覚書を破棄。運転期間の延長は出力の大きい1基のみとしたが、2014年に発足した現政権は、電力安定供給の観点から、最も古い2基の運転期間を2025年まで10年延長する方針を発表した。これら2基は運転期間が満了した2015年2月と12月に一旦停止されたものの、連邦政府と事業者は同年11月、原子力税の支払いなど、これらの運転期間を2025年まで延長する具体的な条件で合意していた。

 今回のエネルギー戦略案における目標事項として、政府は(1)エネルギーの供給保証、(2)パリ協定の遵守、(3)適正価格の維持、(4)エネルギー施設で最高レベルの安全性を確保――を列挙。これらを実現する方策として、原子力の全廃による発電容量の不足を再生エネなどへの追加投資で補うメカニズムの設定、電力やガスなどのエネルギー・コストが他国より高くならないよう特別な注意を払う、などを挙げた。
 パリ協定関連では、2021年から2030年までのCO2排出抑制目標が欧州レベルで決定していることから、「2030年までの国家エネルギー・温暖化防止計画」を早急に策定する方針。政府は4月末までに複数の洋上風力発電ファームを増設するサイトを特定し、建設工事の入札準備などを進める。計画中の3つの風力発電ファームについても、欧州委員会からの承認取得といった作業を急ぎ、遅くとも2021年1月の運転開始を目指すとしている。

 このような政府戦略について、ベルギー原子力フォーラムは同日、「地球温暖化を防止するには、既存の解決策すべてが必要であり、原子力を2025年で全廃した場合、ベルギーはCO2排出抑制目標を達成することはできない」との見解を発表した。
 同フォーラムによると、電力需要の半分以上を賄っている原子炉7基はCO2を排出しておらず、再生エネの間欠性を安定的に補える存在。再生エネは、低炭素なエネルギー・ミックスの実現という点で重要ではあるものの、現在の発電シェア15%では、エネルギー供給保証や地球温暖化といった課題の早急な解決には不十分である。仮に、このシェアを今後、大幅に拡大できたとしても、ベルギーはこれを補完するエネルギー源に頼らざるを得ない。再生エネと組み合わせて原子力を維持することにより、ベルギーは2050年までにCO2の排出量を半分以下に削減できるが、全廃した場合の排出量は3倍になると指摘している。
 同フォーラムはまた、原子力の恩恵によりベルギーでは競争力のある電力価格を保証できると強調。コンサルティング企業のPwC社に委託して調査を行ったところ、原子力の廃止にともない電力輸入やガス火力発電を拡大すれば、国内経済と電力価格に影響が出ることは明らかであると述べた。具体的に同フォーラムは、他国のエネルギーに依存することで供給量や価格の制御が難しくなるほか、地政学的な地位も低下すると指摘。原子力を使って必要な電力の大半を国内生産することは、ロシアの天然ガスやドイツの石炭など、他国の化石燃料を使うのを避けることにもつながると強調している。