英政府と日立、ウィルヴァ計画の最終投資判断に向け協議を継続

2018年6月5日

 英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のG.クラーク大臣は6月4日、日立製作所がホライズン・ニュークリア・パワー社を通じて英国で計画しているウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所建設プロジェクトについて、総事業費の出資分担など最終投資判断に向けた同社との協議を継続する方針を議会で表明した。
 英政府は日立および日本の政府関係機関などとともに、同プロジェクトへの直接投資を検討していく考えを明確に示した一方、資金調達は民間部門で行うべきだとの基本姿勢を改めて強調。協議が成功裏にまとまるには、英政府全体としての承認や規制当局その他の承認が、費用対効果や国家補助要件などの点で必要になるほか、プロジェクトを進めるかについても未決定だとしたが、今月1日付けでホライズン社が同プロジェクトの「開発合意書(DCO)」を計画審査庁に申請した事実を明らかにしている。

 ウェールズ地方のアングルシー島で、日立GEニュークリア・エナジー社製「英国版ABWR」を2基(合計290万kW)建設するという同プロジェクトでは、総事業費が3兆円規模に拡大したとの報道があり、議会説明の中でクラーク大臣は、先行するヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所建設計画よりも低コストで電力供給を実現するため、日立と集中的に交渉していたことを認めた。未確認情報によると、英政府と日立は2019年の最終契約締結に向け、プロジェクトを推進することで4日に基本合意しており、総事業費の分担出資条件についても双方が具体案を提示している模様。しかし、日立はこの情報に関して、現段階では何もコメントできないとしている。

 同大臣によると、ウィルヴァ発電所の発電電力を低価格に抑えるため、英監査局(NAO)と議会下院の決算委員会(PAC)が英政府に対し、HPC計画の資金調達モデルとは若干異なるものを検討するよう勧告。これを受けて、直接投資の検討を始めることになったと述べた。低炭素経済に移行しつつある英国において、原子力は重要な役割を担っているが、経済面を度外視して進められる技術などはあり得ず、新規の原子力発電所も費用に見合った価値を顧客や納税者に提供できねばならないと言明している。

 南西部サマセット州のHPC計画では、完成した原子炉の発電電力を政府が買い取る際の行使価格を1,000kWhあたり92.5ポンド(約13,530円)とすることで、英政府は2013年に事業者の親会社であるフランス電力(EDF)グループと合意。市場の卸売価格がこの固定価格を下回れば英政府がEDFに差額を支払い、逆の場合はEDFが差額を支払うことになっている。この価格に関しては、電気料金の高騰を招きかねないと危惧する声が英国内にはあり、英政府はこれ以降すべての新設計画で低コスト化を目指しているとクラーク大臣は説明した。
 EDFの英国法人であるEDFエナジー社は、南東部のサフォーク州でもサイズウェルC原子力発電所建設計画を進めており、その実施が決まった場合、HPC計画の行使価格は89.5ポンド(約13,093円)に引き下げられる予定。これ以外にも、EDFエナジー社と中国広核集団有限公司(CGN)によるブラッドウェルB発電所計画や、東芝が保有するNuGen社のムーアサイド発電所計画が英国内で検討されていることから、クラーク大臣はウィルヴァ計画の交渉と並行して、これらの事業者とも引き続き協議していく考えを表明した。

 同大臣の認識では、英国がCO2の排出削減目標を最小コストで達成したり、輸送や暖房で一層の電化を進める上では特に、新規の原子力発電設備が相当量必要になる。しかし、その他のエネルギー・インフラと同様、原子力の新設計画は民間部門の資金調達で行うべきだという政府の長期的目標があることに変わりはない。このため、英政府はウィルヴァ以降の新設計画を民間資金で進める持続可能な資金調達モデルとして、資産に基づいたモデルの実行可能性を調査中。このモデルが費用に見合った価値を生み出すとともに財政上の責任を果たし、低炭素化を実現するという政府目標の達成に貢献するはずだとの認識を明らかにした。